『室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君』
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<東北の本棚>南北朝舞台姫君の活躍
[レビュアー] 河北新報
南北朝による混乱が続いた室町時代前期の京都を舞台にした歴史小説。南朝の後村上院を父に持つ透子(とうこ)(椿(つばき)の宮)を主人公に、将軍足利義満や管領細川頼之(よりゆき)、猿楽師の観阿弥、世阿弥(幼名鬼夜叉(やしゃ))父子、楠木(くすのき)正成(まさしげ)の三男正儀(まさのり)らを主な登場人物とし、混乱の収束を願う透子や義満らの葛藤、少女の透子が数々の出会いを通して成長するさまを描いた。
13歳の透子は従者と共に吉野を離れ、男装して京都に潜入した。かつて南朝に仕えたが、北朝に下った正儀を吉野に連れ戻すためだった。
京都に着いて間もなく、透子は子どもの人買いを企てる一味にさらわれてしまう。子どもたちを助け、一味を捕らえようとした武士団が透子らを救う。武士団の首領として街に出た義満と透子の出会いだった。
一本気で芯の強い透子は行く先々で周囲と衝突し、当初は義満とも真っ向から対立する。反目しながらも会話を重ねるうちに互いの立場を理解する。義満らを介して再会した正儀から、後村上院の遺志を継いで混乱に終止符を打とうと願い続ける気持ちを明かされ、透子も次第に心変わりする。
南朝の復権を目指す透子の叔父宗良(むねよし)親王の策謀により義満は捕らわれの身となる。幕府中枢の対立を巻き込み事態が混迷する中、自らの身をなげうつ覚悟で幽閉された義満を救出しようと走りだす。
透子を除く主要人物の多くは史実を基に設定した。裏事情を次々明かす形で物語は終始急展開し、一気に読み切れる。
著者は花巻市出身、同市在住。2008年「いつまでも」で第17回ロマン大賞を受賞しデビュー。
集英社03(3230)6080=713円