古川日出男✕いとうせいこう ヒップホップと小説の共通点を語る

イベントレポート

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ほぼ初顔合わせというお二人ほぼ初顔合わせというお二人

 作家・古川日出男さんの最新刊『ミライミライ』の刊行を記念し、クリエイターのいとうせいこうさんとのトークイベントが、神楽坂lakaguで4月12日に開催された。

 会場には、意外にもほぼ初顔合わせというお二人の貴重なトークを聞こうと熱烈なファンが詰めかけた。

 古川さんのデビュー20周年を記念する長編小説『ミライミライ』は、第2次大戦後北海道がソ連に占領され、連邦国家インディアニッポンとなった日本で誕生した4人組のヒップホップグループを巡るストーリー。青春と音楽と歴史が濃密に絡み合う長編作品だ。

■テーマやキーワードが多く重なる両作品

『ミライミライ』と、いとうさんの近著『小説禁止令に賛同する』には、重なる点が多いと古川さんは指摘する。いとうさんの『小説禁止令に賛同する』は、アジア戦争に負けた2036年の東端列島(日本)が舞台だ。強権的な政権が統治し、言論弾圧を目的とした「小説禁止令」が発布されている。主人公は、思想犯として12年間収監されている75歳の作家。「小説禁止令」が発布されたことを受けて、収監者が作る冊子に『小説禁止令に賛同する』というエッセイの連載を始める。

 古川さんは、「『ミライミライ』では詩人が銃殺されるし、『小説禁止令に賛同する』では小説家は収監される。作品の舞台は日本国ではなく、日本州、東端列島という場所」と、両作の共通点を挙げた。

 一方いとうさんは、「お互いの作品にインドが出てくる点が一番驚いた。またお互いの作品がそれぞれ「ヒップホップ」「小説」という「言葉」をツール、武器として出している点も共通している」と指摘した。

■フレーズがフレーズを呼ぶ

 2人は小説作法について語り合った。まず『ミライミライ』は、書く前から「考えていた大きなストーリーがあった」と古川さんは回想した。続けて、小説は大きなストーリーとは関係ない部分でしか「駆動」しないと分析する。執筆しながら浮かんでくるフレーズが、また別のフレーズを呼び出してるのだという。その話を受けていとうさんは、「(フレーズを)いかに繰り出せるか、それは音楽と全く一緒」と語った。

■ニップノップの誕生秘話

 古川さんはなぜ今回の『ミライミライ』を3人称で書いたのか、執筆直前の様子をこう振り返る。「書き始める10日くらい前に、最初の1行が浮かんできたが、それがすでに3人称だった」。また作中に登場する音楽自体が、3人称で書く要因の一つだったという。

 それは『ミライミライ』に登場する北海道発のヒップホップ「ニップノップ」だ。古川さんは、「ラップではリリックが1人称になってしまう。3人称を許容できるのはヒップホップ。すなわちそれが『ニップノップ』になった。ひいては、3人称で書くことにつながった」と誕生秘話を披露した。

■カメラアングルを探す

 長編小説を書く上で古川さんは、去年くらいから異様に書き直しをするようになってきたという。「(あるシーンをAとすると)書き直しているAが、4回目くらいに突然Cになる。そういう書き方を始めている。書いている場面は同じだが、文章も違うし視点も違う。そのうちにピタッとはまる瞬間がある」と語る。

 その話を受けていとうさんは、「一度書いてみないと、カメラのアングルがわからないってことなんだ」と驚いた様子だった。

 古川さんはこの方法で、4000枚ほど書いたものを1000枚にまで減らしているのだそうだ。

映像文化が小説に与えた影響を熱く語る映像文化が小説に与えた影響を熱く語る

■映像文化が小説に与えた影響

 いとうさんは、作家・奥泉光さんとの別の対談の中で、どこまで細かく文章で表現すべきか、という話になった際のエピソードを紹介した。小説は、映像や演劇などと違って読者が想像するしかないメディアだから、細かく表現しなくてもいいのではないか、という話になったという。

 古川さんも共感した様子で「脚本(台本)が面白いのは、あくまでも土台でしかないものに、役者が想像し演出家が刺激を与える。小説はそこ(細かく表現しない台本)まで戻ったほうがいい」と自論を展開した。いとうさんも大いに納得している様子だった。

 古川さんは、いまの小説が細かく描写するようになったのは映像文化が影響しているのではないかと話す。昔は表現できなかった描写が、映像の登場で細かいところまでできるようになった為ではないかと分析していた。

 お二人のトークは、終了後のサイン会を含め大盛況のうちに終了した。

Book Bang編集部
2018年5月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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