埋葬からみた古墳時代 清家章 著
[レビュアー] 澤宮優(ノンフィクション作家)
◆高かった女性の地位
日本は父系社会だが、その伝統に根拠はあるのだろうか。本書は考古学研究者の著者が古墳の埋葬原理を明らかにし、埋葬から古墳時代(三世紀半ば~六世紀末)の社会形態に言及した。埋葬原理とは、古墳の被葬者の埋葬に関するルールだが、複数の被葬者が埋葬される場合、多いのは兄弟などの血縁者である。妻は夫と別れ、自分の出身地に戻って埋葬される。これは平安時代にも見られた。
また、古墳時代中頃まで首長や家族の長は男女比が半々で、女性の地位は高かった。男性優位になるのは、朝鮮半島の高句麗と戦火を交え、軍が編成されたからである。そんな事象をもとに、現代を新たに分析することも可能である。
本書は論争が続く「王朝交替論」にも踏み込んでいる。大和盆地から現在の大阪府への大王墓の移動が王朝の交替を示しているという説である。ここで著者は埋葬原理から独自の視点を展開する。
あとがきの一節に目が留まった。<民主主義と学問の自由を守るため研究者は行動しなければならない。現在の歴史家は、将来の歴史家にその行動を問われるであろう、時代の変化点にいると感じた>
戦前の皇国史観を軌道修正するとき考古学は大きな役割を果たした。近年の天皇陵古墳の呼称の変更でもそうである。そんな事例にも触れられ、歴史を学ぶ意義を堪能できるのが本書の強みである。
(吉川弘文館・1944円)
<せいけ・あきら> 1967年生まれ。岡山大教授。著書『卑弥呼と女性首長』など。
◆もう1冊
森謙二著『墓と葬送のゆくえ』(吉川弘文館)。伝統的な葬送の変化の理由を考え、埋葬することの意味を問う。