【写真集】『地名』露口啓二
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
■つながっていない風景
北海道にはアイヌ語が元になった地名が多い。写真家は各地で地名の由来になったと思われる風景を探して歩く。作品には地名(漢字)と音(ローマ字)、アイヌ語の意味が付記され、写真家の解釈と行動を追うことができる。たとえば掲載写真なら「札比内/Sappinai/sat-pi-nay(乾く・小石の・川)」。
特徴は、同じ場所から視点をずらして撮影した組み写真になっていること。見開きページの左右2枚でパノラマ風になるのだが、じつは左右で撮られた時期が違っている。この写真も、左の画面には残雪と枯れ木、でも右の茂みは青々。わざわざ同じ場所を再訪していて、この写真では1年以上が過ぎているのだ。
つながっているようでつながっていない風景、表意文字の漢字と文字表記のなかったアイヌ語とのズレ…。言葉や歴史、文化について、思索のきっかけを与えてくれる。(赤々舎・5000円+税)
篠原知存