トンネルの出口が上下に2つ!? 東京近郊にある不思議な場所とは

イベントレポート

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宮田珠己さん×皆川典久さん×松澤茂信さんトークショーを開催宮田珠己さんの『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社)刊行記念トークショーを開催

 5月8日、神楽坂のla kaguにてエッセイスト・宮田珠己さんの新刊『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社)の刊行を記念し、「東京スリバチ学会」の皆川典久さん、Webサイト「東京別視点ガイド」の運営者・松澤茂信さんを交えたトークイベントが開催された。

『東京近郊スペクタクルさんぽ』は、長年、エッセイストとして日本各地を旅してきた宮田さんが、東京から日帰りでも行ける“スペクタクル”なスポットを、独自の視点で歩き尽くした旅行記。イベントではそれぞれの考えるさんぽの魅力や可能性を巡り、お互いのこだわりが熱くぶつかり合った。

■ときめきを求めて

 20年以上にわたり、日本・世界のあちこちを回ってきた宮田さん。今回の本では、当初、東京の気になる場所を訪れる旅行記にするつもりだったというが、結局「東京の楽しみ方がわからなくて。その周り(近郊)に行くことになってしまった」のだとか。
 
 そして、今回の旅先の魅力を順に振り返っていったが、なかでも、大いに好奇心を掻き立てられたスポットの一つとして千葉県の養老渓谷にある向山トンネルを挙げた。

 このトンネルは元々上につながっていたトンネルの真下に新しいトンネルを掘り直したことで、出口が上下に二つあるように見えるという。宮田さんは「まるで下のトンネルが過去に、上のトンネルが未来につながっているみたいに見える」と話す。「こういうことを想像するとドキドキしますね」と、絶景に限らずとも自分をワクワクさせてくれたり、ときめきを与えてくれる光景がスペクタクルなのだと熱弁した。

 ただ、宮田さんいわく、自然だけではなく〈もの〉にもスペクタクルな見所はあるそう。大磯の澤田美喜記念館で隠れキリシタンの遺品の一つである魔鏡を観覧した際にも、何の変哲もない鏡が、光を照らされたとたん磔にされたキリストが浮かびあがるその光景に「ハっとさせられ、ワクワクした」のだと語った。

千葉県の養老渓谷にある向山トンネル千葉県の養老渓谷にある向山トンネル

■山ガールより、谷オヤジ

 対して、「スリバチ地形さんぽ」と題して都内でフィールドワークを続けている皆川さん。スリバチ地形とは谷や池、窪地などの凹んだ土地がスリバチの形に似ていることから命名した地形で、都心こそ、こうした凸凹地形が密集しているのだという。

 そして、その一例としてイベント会場の近くにある、袋町を挙げた。袋町とは池や川に囲まれた袋状の土地であったことからその名がついたのだが、この地形からも多くのことが読み取れるという。

「じつは中世の時代、ここには牛込城というお城があったんです。お城は侵攻しにくい土地になければならないので、水に囲まれているこの土地を選んだのでしょう」(皆川さん)

 と、普段は何気なく通り過ぎている窪み状の土地も、よく観察し、深く読み解いていけば、隠された意味や歴史が浮かび上がってくるのだと力説。その後も都心の地形的な魅力を熱っぽく語り、「山ガールではなくて、いま都内で熱いのは谷オヤジです」と会場に呼びかけた。

■人間こそスペクタクル

 都内をはじめ、主に珍スポットと呼ばれる場所をサイト上で紹介している松澤さんの場合は、訪れる土地やお店の「人間に着目しがち」だという。なかでも、一番のお気に入りが新橋にある居酒屋〈かがや〉だ。

「料理のコース名からしてふざけていて、〈ねえ、マスター今日はもう食べておなかいっぱいなんだ。気の利いた軽いつまみ作ってよ〉なんてものがあります。マスターはマーク・カガヤさんというのですが、料理の持ってき方として〈日本〉を選ぶと、彼がまじめな日本舞踊を10分以上かけて踊りながら持ってきたりもします。でも、このサービスでかれこれ20年以上も続けていて、いまでは予約も困難。なにをすればお客さんが喜ぶのか、マスターなりにきちんと戦略を立てて営業しているんです」(松澤さん)

 松澤さんにとって珍スポットとは、つくった人の意図や精神が顕れた空間であり、そうした心の機微に触れるとスペクタクルを感じるのだそうだ。その後も岐阜県にあるツッコミどころ満載のテーマパークの話や、道ばたに落ちている手袋を収集する片手袋研究家の活動などを紹介し、そのディープでマニアックすぎる世界に観客一同、熱心に耳を傾けていた。

■ありきたりな「絶景」でもなく、「路地歩き」でもなく

 宮田さんは今回の取材を通して、旅の嗜好の変化にも気づいたという。若い頃はよく巡っていた廃墟も、「暗い気持ちになるから行かなくなった」と語り、かといって、カレンダーで見るような「絶景」は現場に行くと、そうそう見られない、だから自分自身が見てどれだけハッと驚いたか、そういう観点で風景を見ていると明かした。
 
 流行りの〈路地歩き〉にも「ぎりぎりハマれなかった」という。「気持ちはわかります」と前置きしたうえで、「出口がわからないような入り組んだ路地は迷路を歩いているみたいでワクワクしますが、ただ昭和っぽいとかだけだと、だめですね」と複雑な思いを語った。

■ディズニーランドこそ最大の珍スポット

 その後も、お互いの気になる旅先について話が及ぶが、宮田さんはニッチ過ぎる趣味にも乗りきれないのだとか。「本人が楽しんでいるのであれば良いんですけど、人がやっていないことを追い求めすぎて我を失っているんじゃないか」と苦笑い。

 しかし、その一方で、松澤さんは最近のブームは〈ディズニーランド巡り〉であることを明かした。なんでも、人間の精神の発露こそが珍スポットであると捉えるのであれば「なんとなく」でおかれているものが一つもないディズニーランドこそ「最大の珍スポット」と言えるのだという。

 そして、皆川さんも「ディズニーシーは地形的には面白い。精巧な山をつくって地層もリアルに表現しているらしいです」と続き、最後はディズニーランドについて熱く語るまさかの展開となった。

 2人の話を受けて宮田さんは、「自分がときめいたものを掘り続けていくと、意外に(ディズニーランドのような)メジャーなものにも共通点が見出せるのかもしれませんね」と分析していた。

 会場内は終始笑いに包まれながらも、なかには熱心にメモを取る人の姿も見られ、イベントは盛況のうちに幕を閉じた。

Book Bang編集部
2018年6月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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