第6回河合隼雄賞が決定 物語賞に松家仁之『光の犬』 学芸賞に鶴岡真弓『ケルト再生の思想』

文学賞・賞

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 第6回河合隼雄物語賞・学芸賞の選考会が5月30日、京都市内にて行われ、物語賞に松家仁之さんの『光の犬』(新潮社)、学芸賞に鶴岡真弓さんの『ケルト再生の思想―ハロウィンからの生命循環―』(筑摩書房)が選ばれた。

 物語賞に選ばれた『光の犬』は、北海道を舞台に百年以上に亘る一族の姿を描いた長編小説。今年3月に第68回芸術選奨文部科学大臣賞に選ばれた一作だ。祖母の幼少時である明治期から、50代になった始が東京から帰郷し、父母と三人のおばたちの老いにひとり向きあう現在まで、100年にわたる一族の生のきらめきと翳りを、ひとりひとりの記憶をたどるように行きつ戻りつ描きだす。

 作家の朝井リョウさんは、《この本のあらすじを読んだとき、私は勝手に、血の繋がりゆえの言葉にしがたい愛情が時空を超えて飛び交うような、心温まる物語を想像していた。しかし濃厚に匂い立ってきたのは、血の繋がりゆえのわからなさ、家族だからこそのぎこちなさのほうだった》(読売新聞・書評)と評している。( https://www.bookbang.jp/review/article/544168

 著者の松家さんは、1958年東京生まれ。早稲田大学卒業後、新潮社に勤務し、海外文学シリーズの新潮クレスト・ブックスを創刊、「考える人」「芸術新潮」の編集長などを務める。2010年に退職し、2012年に長篇小説『火山のふもとで』で小説家デビュー。2013年に同作が第64回読売文学賞を受賞する。その他の著書に『沈むフランシス』『優雅なのかどうか、わからない』、編著・共著に『伊丹十三の本』『新しい須賀敦子』、新潮クレスト・ブックス・アンソロジー『美しい子ども』などがある。

 学芸賞に選ばれた『ケルト再生の思想』は、ケルト芸術文化史を専門とする鶴岡さんが「ハロウィン」に封印されたケルト文明の思想を具体的事例や神話、文学作品、芸術を提示しながら解き明かした一冊。

 著者の鶴岡さんは、早稲田大学大学院修了、ダブリン大学トリニティ・カレッジ留学。現在、多摩美術大学芸術人類学研究所長・芸術学科教授。処女作『ケルト/装飾的思考』で、日本でのケルト文明芸術理解の火付け役となる。著書に、『ケルト美術』『阿修羅のジュエリー』など多数。

 今年で6回目を迎える同賞は、2013年に一般財団法人河合隼雄財団が創設。物語賞は、人のこころを支えるような物語をつくり出した優れた文芸作品に与えられ、河合隼雄が深く関わっていた児童文学もその対象とする。学芸賞は、優れた学術的成果と独創をもとに、様々な世界の深層を物語性豊かに明らかにした著作に与えられる。選考は1年ごとに行い、毎年3月からさかのぼって2年の期間内に発表・発行された作品を選考対象とする。選考結果の公式発表は「新潮」誌上および「webでも考える人」サイトで行い、候補作の公表はしていない。

Book Bang編集部
2018年5月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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