巨匠・里中満智子「『大家さん』ではなく『大家(たいか)』に」 カラテカ・矢部太郎『大家さんと僕』 手塚治虫文化賞選評全文
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『大家さんと僕』
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巨匠・里中満智子「『大家さん』ではなく『大家(たいか)』に カラテカ・矢部太郎『大家さんと僕』 手塚治虫文化賞 選評全文
[レビュアー] 里中満智子(マンガ家/マンガジャパン代表)
コミックエッセイ『大家さんと僕』で、芸人として初の快挙となる手塚治虫文化賞短編賞を受賞したカラテカ・矢部太郎さん。矢部さんが暮らす新宿外れの一軒家での、大家さんとの日常を描いた同作は、話題が話題を呼び既に38万部を超えるベストセラーとなっている。
6月7日に行われた手塚治虫文化賞贈呈式で同書の選評を行った、少女漫画界の巨匠の里中満智子さんが選評を行った。以下、その全文を掲載する。
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『大家さんと僕』は本っ当に素晴らしいです。申し訳ないのですが、最初はちょっと器用な芸人さんがお描きになっただけのかなと思ってました。でも数ページ読んで「……あれ?」、10ページ以上読むと、脱帽しました。この方どうして芸人をやってらっしゃるのか、最初からこちら(漫画界)にいらっしゃったらよかったのに、と思いました(会場笑)。今日は吉本のの関係者の方もたくさんいらっしゃっているので、吉本にいかなくてよかったのにとは言っちゃいけないと思うので……修正します(笑)。
舞台に立つこと、笑いをとることというのは、ものすごく、瞬間瞬間の間合いの勝負だと思います。それによって、矢部さんは、独特の間の取り方を自分のものになさっていて、それがこの作品の肝だと思います。
エッセイ漫画というのは、自分が体験したことや感じたことを描けばいいというものではありません。それならば、「何を体験したか」で決まってしまいます。ご自身が体験したことを、どう感じ、どう考え、どう伝えるか――この伝え方でエッセイ漫画の魅力は変わるのですが、矢部さんはそれについて、ものすごい才能がある、そしてなおかつ、実力もあります。この作品のタイトルは『大家さんと僕』ですが、大家さんと巡り会えていなくても、いつか必ず何かを描けた方だと、本当にそう思います。そしてやがて、「大家さん」ではなく「大家(たいか)」になられることを願っています。(会場中拍手)。
ついでになりますが、吉本でも頑張って頂きたいと思います(会場笑)。でもぜひ、こちらに軸足をおろして、ずーーっと長生きして描いて下さい。楽しみにしております。
いい作品をありがとうございました。読んだ人はみんな、心が癒されます。心のビタミン剤、あったかい飲み物のような作品です。もっと売れればいいと願っています(会場笑)。マスコミの方よろしくお願いします。
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