ジャニオタが「推しのファンサ」を求めないワケ ずっと好きでいるための「マイルール」

対談・鼎談

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くたばれ地下アイドル

『くたばれ地下アイドル』

著者
小林 早代子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103517610
発売日
2018/04/26
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ジャニオタが「推しのファンサ」を求めないワケ ずっと好きでいるための「マイルール」

[文] 新潮社

写真はイメージ
写真はイメージ

 あなたは何かにハマっていますか――。

 世の中にはいわゆる「オタク」と呼ばれる人たちがいる。漫画、アニメ、アイドル、鉄道、スポーツ、格闘技など、ジャンルを問わず何かに熱中、没頭している人のことを指し示す言葉だ。

 それにハマったからこそ知り得た楽しさや、それを共有し合える仲間の存在など、オタクだからこそ感じられる幸せがある一方で、オタクにならなければ感じることのなかった喪失感や失望感なども存在する。しかしどんな場合においても「こんなに楽しいことはない!」「叶うことなら、一生それを好きでいたい!」そう思うのが、オタクの心情ではないだろうか。

 今回は、ジャニオタ(ジャニーズ事務所所属タレントのオタク)ブロガーとして大人気のあややさんと、アイドル周辺の悲喜こもごもをテーマにした短編集「くたばれ地下アイドル」の著者・小林早代子さんに、アイドルにハマったきっかけやドルオタとしてのマイルールなどを伺った。

 ***

小林 はじめまして。あややさんのブログやツイッターの大ファンで、ずっと読んでいたので今日はお目にかかれて嬉しいです。

あやや こちらこそ! 『くたばれ地下アイドル』すごく面白かったです。とくに最後の作品「寄る辺なくはない私たちの日常にアイドルがあるということ」が一番好きです。オタクとしてはかなりぐっとくるところがありました。オタクがアイドルに対して「誠実か不誠実か」と議論するところ、自分にも身に覚えがある問いかけだったので、読みながら我が身を振り返って、過去の自分と現在の自分が討論しているような気持ちにすらなりました(笑)小林さんがインタビューで「小説の執筆をきっかけにアイドルにハマった」と仰っていたのを見て、たった3年でこんなにドルオタの心理を描写できるようになるなんて! とすごくびっくりしました。

小林 そうなんです。アイドルにまつわる小説を書いて一冊にしてみようと思って、積極的にアイドルを摂取するようにしたらすっかりハマってしまって(笑)。あややさんはいつからアイドルにハマったんですか?

あやや 私は中学生のときにNHKのポップジャムという番組を、ハロプロのために見ていたんです。「三人祭」とかが大好きで。で、そこに「☆☆I★N★G★進行形」という堂本光一さんがプロデュースしているグループが出てきて、すごく好きになったんですが、親が厳しくて、しかも高知に住んでいたのでコンサートとかも行けなくて。テレビを見ながら応援しているという感じでした。でも、大学進学で東京に出て、友達に誘われて初めて関ジャニ∞のコンサートに行ったんです。そこからはもう、真っ逆さまという感じですね(笑)。

小林 へぇ~! それって何年くらい前のことですか?

あやや 10年前くらいです。

小林 10年! その間ずっと、スタンスは変われどずっとドルオタであり続けるってすごいことですよね。

■無理にファンサは求めない

――10年もの間何かを好きでい続けるというのは、案外難しいのではないだろうか。特に相手が「人間」の場合には、自分自身ではコントロール出来ない予測不能な事態――熱愛発覚、結婚、引退、解散など――も起こりえる。例えば、4月にジャニーズ事務所から退所することを発表した関ジャニ∞の渋谷すばるは、7月8日の「関ジャム」生放送で、関ジャニ∞としての最後の活動を終えたばかりだ。また、相手が「人間」であるが故に、その人に「アイドル」としての振る舞いをどこまでなら要求してよいのか、傷つけたり不快な気持ちにさせたりしてはいないかなど、オタクならではの葛藤もある。そうした予測不能な事態や葛藤などを、オタクはどのようにして乗り越えているのか。

小林 実は私、最近自分が誠実なオタクであるためのマイルールを決めたんです。まずは「チケットを無理に入手しない」それから「無理矢理ファンサを求めない」。

あやや おお! マイルール大事ですよね。「無理矢理ファンサを求めない」というのはどうしてですか?

小林 この間、ジャニーズJr.のコンサートでたまたま通路側のちょっといい席に座れたんです。一番注目している子が通路を通ったとき、彼はハイタッチとかのテンションではなかった様子だったんですけど、思わずちょっと触っちゃったんですよね……。そしたら、もう本当に落ち込んじゃって。相手がそういう気分じゃないときに触っちゃったらセクハラじゃんって。私は大好きなアイドルに対してセクハラを働いてしまったと思ったら、すごく悲しい気持ちになって、公演をあまり楽しめなかったんです。だから、相手が積極的にハイタッチとかしてるとき以外は絶対に触らない、ファンサするよ~って盛り上がってるタイミング以外はペンラもがんがん振ったりしないって決めました(笑)

あやや 分かります。私もだんだんファンサは求めなくなってきました。小林さんとは少し理由が違うんですけど、ファンサって個人に向けられたコミュニケーションだから破壊力が凄いじゃないですか。その分記憶にも残るし感情を揺さぶられるんですけど、終わった後にそのアイドルの印象をそれでしか測れなくなってしまうのが怖くて。歌とかダンスが良かったとかじゃなくて、ファンサしてくれたから好きみたい(笑)。ファンサの破壊力に引っ張られないようにファンサを求めないようにしているかもしれないです。 

小林 あややさんにはマイルールってありますか?

あやや 私はアイドルの物語が一冊の本だとしたら、他の人がその本に辿り着けるように「好きなアイドルの本の帯を書く(好きなアイドルの物語にキャッチコピーをつける)」っていうのを以前のマイルールにしてました。一般の人にも伝わるように、アイドルの良さをTwitterやブログで発信する! というようなことを、おこがましくも考えていたんですよね。
 でも今Kis-My-Ft2の北山宏光さんのファンになって、帯なんかより何より中身をとにかく読んでくれ!という気持ちが先行してきていて、良い意味でマイルールが守れていません(笑)。

小林 すごく素敵な表現!「アイドルの物語」っていうのもすごくしっくりきます。アイドルの物語をファンとして共有できることに幸せを感じますし、その一方で、ファンの数だけ物語があるよなーとも思います。あややさんだけでなく、ジャニオタの方々は推しの魅力を積極的にプレゼンする人が多いですよね。小説を執筆するにあたっていろいろなドルオタのSNSを巡回していたんですが、Sexy Zoneをエネルギッシュに紹介しているブログだかツイートだかを読んで、こんなおもしろいグループがあるのか!と興味を持ち、その後まんまとファンクラブに入ってしまいました。
 私、自分がこんなにも他者に夢中になったりできる、感情に起伏のある人間だと思っていなかったので、アイドルにハマっている自分を俯瞰して見たときに、そんな自分を面白いなって思ったりもしています。せっかくこんなに好きになったんだから、みんなが言っている「裏切られた」っていう感情についてはちょっと憧れを抱いているところすらあります。

あやや 私は、Hey Say! JUMPの森本くんのファンだったので、未成年喫煙で無期限謹慎になったときその「裏切られた」に似た気持ちを経験しているので「本当に辛いですよ」ということをお伝えしておきます(苦笑)。でも、信仰心が強ければ強いほど、そういう問題に直面した時って、自らも反省したり、そのアイドルのことを深く考えたり、向き合い方を見つめなおすタイミングでもあるので、まだそういう経験がない小林さんが興味を持つ気持ちも分かる気がします。

小林 なるほど……。いずれ訪れるであろう「その瞬間」のことを考えるとドキドキしますね。私はようやくマイルールを決められたくらいの、まだまだ初心者ですが、ドルオタになる前の自分は何をよすがに生きていたのか思い出せないくらい、ドルオタライフを楽しんでいます。あややさん、これからもご指導よろしくお願いいたします!

 ***

 好きでいればいろんなことが起こる。良いことだけはなく「裏切られた」と感じるような出来事も起こる。しかし、そうしたジェットコースターのように揺れ動く感情こそが、「オタク」になったからこそ体験できる喜びなのかもしれない。

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https://www.bookbang.jp/article/553639

新潮社
2018年7月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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