敗れても敗れても 東大野球部「百年」の奮戦 門田隆将 著
[レビュアー] 谷澤健一(野球解説者)
◆課題を抱えて、やめない挑戦
これは大正八年に誕生し、来年創部百年を迎える東京大学野球部の歩みをたどった本だ。著者は、太平洋戦争末期に沖縄県知事として赴任した内務官僚・島田叡(あきら)の足跡を追ううちに、彼が学生時代に所属した野球部そのものを描くようになったのだという。東京六大学リーグが始まって以来の勝率は一割三分五厘(昨年秋季リーグ終了時点)。彼らは敗れても敗れても挑戦をやめない。その姿勢の一端に触れるエピソードを紹介して、本書に誘(いざな)いたい。
私は二〇一〇年十二月から昨年までの約七年、東大野球部の臨時コーチとして部員たちと寝食を共にした。指導について三カ月ほどたったとき、学生コーチからメールが届いた。三点ほどの質問だったが、その一つに東大野球部の隠れた悩みが見てとれた。
チームの課題として「組織として弱い」という点を近年抱いてきたという。彼は、部員の行動や規範など野球以外の東大野球部という組織の力を上げていく必要があると考えていた。そして、私がこれまでに見たチームの中で、この組織は強いと思ったチームはあるか、そのチームとそうでないチームとの差はどこにあるかを尋ねていた。
困った質問だったが、私は東大のリーグ加盟に尽力され、東京六大学野球リーグの発足につなげた飛田穂洲(とびたすいしゅう)先生の心構えや、私の西武コーチ時代の「必勝法、必敗法」の小冊子を添えて送った。
しかし、それは彼に対する名解答ではなかったし、私の誤魔化(ごまか)しに過ぎなかったと反省している。既にその年から始まっていた九十四連敗が物語っていた。けれど、卒業していく部員たちの残したものの中に一筋の光明があったのは確かだった。僅差(きんさ)で落とした敗戦後のロッカールームでは、悔しくて涙が溢(あふ)れる試合も増えた。だからこそ、七年間も引くに引けなかった。
学生コーチから貰(もら)った難題は、退任した今も解決できずにいる。それは来年、創部から一世紀の節目を迎える東大野球部が抱える永遠のテーマであろう。
(中央公論新社・1728円)
1958年生まれ。ノンフィクション作家。著書『甲子園への遺言』など。
◆もう1冊
ベースボール・マガジン社編『東京大学野球部』(ベースボール・マガジン社)