話題の本『答えのない道徳の問題 どう解く?』が公立小学校で道徳授業の教材に

イベントレポート

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全国の小学校で道徳が教科化され4ヶ月――この度、ポプラ社と戸田市教育委員会によって実施された授業が、戸田市立戸田第一小学校で行われました。授業では、テレビ・新聞・WEBなどで紹介されている話題の書籍『答えのない道徳の問題 どう解く?』(以下『どう解く?』)を教材として活用。13の問い掛けの中から「うそ、どう解く?」をテーマに行われた授業をレポートします。初の試みとなる今回の授業で、子供たちは何を考え、どんな意見を持ったのか?

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『答えのない道徳の問題 どう解く?』を活用した授業風景
『答えのない道徳の問題 どう解く?』を活用した授業風景

「嘘って、ついてもいいのかな?」
「いい!」「だめ!」「だめだけど、いいときもある!」

 ここは埼玉県・戸田市立戸田第一小学校4年5組の教室。いまは午後2時、5時間目の道徳の授業が始まったばかりです。榮亜耶先生の問いかけに、あちこちから子どもたちの大きな声がわき上がりました。

「嘘をついてもいいと思う人?」という質問に、10人ほどの子どもが手を挙げます。「嘘をつくのはだめだと思う人?」。こちらは20人以上。「じゃあ、これまでに嘘をついたことのある人は?」。今度は、ほとんどの子どもが手を挙げました。いい、悪いは別にして、子どもたちにとって嘘は身近な存在のようです。続けて榮先生は『どう解く?』のページを開き、こんなエピソードを紹介しました。

「友だちから、好きじゃないプレゼントをもらった。『うれしい!』と嘘ついたら、友だちはよろこんでいた」

 ほんの一瞬、教室が静まります。「やっぱり、嘘をついてもいいんじゃない?」「いい嘘と悪い嘘があるんだよ」。子どもたちが互いの顔を見ながら、さっきとは違う意見を口にし始めました。「では、ワークシートに自分の意見を書いてみましょう」。榮先生に促され、鉛筆を握る子どもたち。「嘘をついてもいい・嘘をついてはいけない」のどちらかに丸をつけ、その理由を書くのです。ある女の子は、いったん「嘘をついてはいけない」に丸をつけましたが、しばらく考えて消しゴムで消し、「嘘をついてもいい」を丸で囲みました。

ワークシートに真剣に取り組む様子
ワークシートに真剣に取り組む様子

 みんなが意見を書き終えたタイミングであらためて問いかけると、「嘘をついてもいいと思う人」にはさっきよりも多い20人以上が手を挙げました。一方「嘘をつくのはだめだと思う人」に手を挙げたのはわずか3人。こちらはずいぶん減ったようです。何人かはどちらにも手を挙げず、まだ迷っている様子です。

「友だちを悲しませないためだったら、嘘をついてもいい」
「嘘だとバレたら嫌われるので、最初から嘘はついちゃだめ」
「このプレゼントは嫌だって自分の素直な気持ちを言えば、友だちも許してくれそう」
「えー、それは違うと思う。せっかくあげたのにって嫌な気持ちになるよ」
「もらったプレゼントに好き嫌いを言うのは自分勝手」
「相手が嫌な気持ちになるかどうかは、言う言葉にもよるんじゃないかな」
「もし私だったら、友だちが自分のためについてくれた嘘ならうれしいと思う」
「嘘をついていいときと、いけないときがあるんだよ」

「嘘をついてもいい」「嘘をついてはいけない」、それぞれの立場からさまざまな意見が交わされます。「どうやらついていい嘘と、いけない嘘があるみたいだね。じゃあ、その違いってなんだろう?」。さらに議論を深めるため、榮先生が子どもたちに新たな問いかけをしました。

発言をじっくり聞いて問いを投げかける榮先生
発言をじっくり聞いて問いを投げかける榮先生

「相手を喜ばせる嘘なら、ついてもいい」
「たとえ相手が喜んでも、お世辞はだめ」
「場の空気をなごませる嘘だったらいいと思う」
「だめなのは自分の罪を逃れるための嘘」
「最初から相手を傷つけるための嘘もだめ」

積極的に発言が飛び交う授業に
積極的に発言が飛び交う授業に

 またまた活発な意見が飛び交います。あっという間に時間が過ぎ去り、授業時間はあと10分。榮先生は子どもたちをふたたびワークシートに向かわせました。「ついていい嘘とついちゃいけない嘘、あなたは、どう考える?」「今日の授業の感想(考えたこと・思ったこと・これからしていきたいことなど)」という二つの欄に、子どもたちは自分の思いを書き記します。揺れ動いた自分の意見や、友だちの発した意外な意見。授業で交わされた意見を振り返ることで、教室の中だけでもいろいろな考えがあることに気づいたのではないでしょうか。

谷川俊太郎さんによる「うそ、どう解く?」へのコメント
谷川俊太郎さんによる「うそ、どう解く?」へのコメント

 最後に、榮先生はもう一度『どう解く?』のページを開き、谷川俊太郎さんの意見を紹介しました。

「嘘をつかずに生きていくことは誰にもできないのだから、嘘を自覚しながら嘘といっしょに生きていこう」

 子どもたちは「どういう意味だろう?」と、すこし不思議そうな表情で先生を見つめます。榮先生は、あえて解説をつけ加えません。そして、これが正解だとも言いません。

 午後2時45分。鳴り響くチャイムが、答えのない授業の終わりを告げました。

授業を終えて

参観した『答えのない道徳の問題 どう解く?』著者と一緒に記念撮影
参観した『答えのない道徳の問題 どう解く?』著者と一緒に記念撮影

『どう解く?』活用授業の振り返り会では、活発な意見が飛び交ったことを受けての収穫や、今後に向けての課題など、活発な議論が交わされました。授業を担当した榮教諭は「普段の道徳の授業では大人が望む『正解』を答えようとする子どもたちも、今回の授業では本音で意見を交わしてくれたのが収穫でした。算数のように明確な答えのない道徳の授業は、どの子どもでも意見が出しやすいようです。たとえどんな意見を言おうとも、決して間違いではないですからね。授業中は、なるべく多くの子どもから意見を引き出そうと心がけています。授業時間内に発言できなかった子どもに対しては、ワークシートを読んだ上で後から声をかけるようにしていきたいですね」と語っていました。

文=尾関友詩 協力=戸田市教育委員会/戸田市立戸田第一小学校

ポプラ社
2018年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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