市場のことば、本の声 宇田智子著
[レビュアー] 木村晃(サンブックス浜田山店長)
◆心温まる古書店の日常
毎日、種々雑多な「本」が店頭に並ぶ中、皆さんは、どのような理由で手にとるのだろう。好きな作家、話題の本、書評に紹介された本、会員制交流サイト(SNS)での情報と、さまざまある。または、ふらりと立ち寄り、書名や装丁、その本のたたずまいに引かれ、つい手に取ってしまう本もあるのではないだろうか。『市場のことば、本の声』は、まさにそんな一冊だ。
著者の宇田智子さんは、某大型書店勤務を経て沖縄・那覇で「市場の古本屋ウララ」を開業。日本一狭い古本屋(売り場面積三坪弱)としてメディアでよく紹介されている。日本一狭いことに注目されがちだが、なんといってもエッセイストとして、また、精力的にトークイベントも開催している彼女の魅力があってこそのことだろう。
同じ「本」に携わる者として、本書の一文に感銘せずにいられない。
「あいだに立つ売り手にできるのは、邪魔をしないことくらい。過剰な期待をあおらず、好みを押しつけたりもせず、そこに置いておく。あとは、まかせた」
なんとも感慨深い言葉ではないか。
そんな彼女の日常の出来事をつづった本書は魅力に満ちあふれている。
エッセイストとしての筆力も確かで、登場するお客さまや、近所の商店の方々とのやりとりは、心温まる古き良き時代の日本を感じさせる。小さな店が軒を連ねる「アメ横」のような所なのだろうと、現地の様子も自然に思い浮かべてしまう。また、多種多様な「本」とのよもやま話も非常に興味深い。生半可な「本の虫」ではないことがうかがえる。
ちなみに、沖縄では「市場」のことを、親しみを込めて「町(まち)」+「小(ぐゎー)」で「まちぐゎー」と呼ぶらしい。
そんな「まちぐゎー」を身近に感じさせてくれる本書は、どこか心をホッとさせてくれる。
最近、自分の書棚に並べた一冊だ。
(晶文社・1728円)
「市場の古本屋ウララ」店主。著書『本屋になりたい-この島の本を売る』など。
◆もう1冊
本の雑誌編集部編『ニッポンの本屋』(本の雑誌社)。魅力的な書店を紹介。