第28回ドゥマゴ文学賞が決定 さわやかな一撃をくれる、九螺ささら『神様の住所』が受賞

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 第28回Bunkamuraドゥマゴ文学賞が3日に発表され、九螺ささらさんの『神様の住所』(朝日出版社)に決まった。

 受賞作『神様の住所』は、“哲学”“前略”“濁点”“無限”“トマトと的”など84のテーマが、「短歌」→「自己解説(風文章)」→「短歌」の三段階で構成される散文集。

 著者の九螺ささらさんは、神奈川県生まれ。2009年から独学で短歌を作り始め、2010年に短歌研究新人賞次席。2014年から新聞歌壇への投稿を始め、朝日新聞「朝日歌壇」、日本経済新聞「歌壇」、東京新聞「東京歌壇」、ダ・ヴィンチ「短歌ください」、NHKラジオ「夜はぷちぷちケータイ短歌」など掲載無数。本書が初の著書となる。

 今年選考委員を務めた作家の大竹昭子さんは、同賞の理念に基づき、「既成のジャンルに納まりきらない作品であることと、文学、すなわち言葉による表現とはなにかを根本から問う姿勢をもっていること、それが理屈ではなく表現への切実な感情によって支えられていること、はじめて世に問う作品であること」と選考の方針を決めて受賞作を決定。「短歌だけでまとめるのではなく、短歌のあいだに散文を挟んで起承転結のある物語に仕上げています。従来の短歌集にしなかったところにチャレンジ精神が感じられますし、自分は納まりのよくない人間だというつぶやきも聞こえてきて、作家の自意識が伝わってきました」と解説し、「読み進むうちに、慣れ親しんできた言葉が別の相貌をまとい、ふだん使っていない頭の部位がマッサージされるような不思議な感興がわきおこる」と評した。また、大竹さんは週刊誌「週刊新潮」の書評欄でも本作を紹介し、「鋭い批評精神と粘りのある思考力に、理系の視線が加わり、さわやかな一撃をくれる」と激賞している。( https://www.bookbang.jp/review/article/556934

 今年で28回目を迎える同賞は、株式会社東急文化村が主催する文学賞。パリの「ドゥ・マゴ賞」(1933年創設)のもつ先進性と独創性を受け継ぎ、既成の概念にとらわれることなく、常に新しい才能を認め、発掘することを目的に1990年に創設された。小説・評論・戯曲・詩を毎年「ひとりの選考委員」が審査し、年1回発表している。

 昨年は、1937年の日中戦争直後、日本が支配していた時代の上海を舞台に、祖国に捨てられ、自らの名前も捨てた男の苦難に満ちた潜伏生活を描いた松浦寿輝さんの『名誉と恍惚』が受賞している。過去には町田康さんの『くっすん大黒』(第7回)、吉本ばななさんの『不倫と南米』(第10回)、エッセイでは平松洋子さんの『買えない味』(第16回)、評論では武田砂鉄さんの『紋切型社会』(第25回)などが受賞している。

Book Bang編集部
2018年9月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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