「恋愛をしない自由もあるんじゃないか」芥川賞作家・朝吹真理子が新作で問いかけたこと[ゴロウ・デラックス]

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TBS「ゴロウ・デラックス」公式サイトより

 稲垣吾郎さん(44)が司会を務める読書バラエティー「ゴロウ・デラックス」(TBS系)に7日、作家の朝吹真理子さん(33)が出演した。2011年に芥川賞を受賞してから7年をかけ、受賞後第1作を書き上げた朝吹さんが、創作の苦しみと執筆が進むきっかけとなったキーパーソンを明かした。

■7年間苦しんだ新作

 この日の課題図書は朝吹さんの新著『TIMELESS』(新潮社)。2011年、「きことわ」で芥川賞を受賞した朝吹さん。今作が芥川賞受賞後の第1作となる。司会の稲垣さんに「なんで7年間書いてくれなかったんですか」と問われた朝吹さんは、「7年間頑張って書こうと取り組み続けて、ようやく奇跡的に書き上げることができた」と今作を生み出すまでの苦労を振り返った。始めの3行を書くと、その3行が次の4行目を推進してくれる大事な3行となる」と解説するも、「私の場合は4行目に行くのかと思ったらまた1行目を推敲しちゃって、その3行の中で何年間も流転してしまって」と創作の苦しみについて語った。

 その3行を編集者に見せることはなかったのかと稲垣さんに問われると、その3行は“おかゆ”のようなもので「白米みたいに粒立っていなくて、ドロっとしていて」「それを見せることは裸より圧倒的に恥ずかしい」とずっと固辞していたという。それでも見せろと言われ仕方なく見せると、編集者も絶望の顔をし「握りすぎて腐った寿司」と酷評を受けたことを明かした。

■恋愛をしない自由もあるんじゃないか

 そんな苦労の末7年ぶりに書き上げられた作品は、恋愛感情をもたないままに結婚した男女の物語。番組では恋愛感情を抱けない女性の心理が描かれているシーンを稲垣さんが朗読。朝吹さんは「近代以降恋愛結婚ができるようになり、恋愛をすることがとても素晴らしいこととなってきた。それはもちろんそうなんですけど、人間って恋愛をしない自由もあるんじゃないか」と現代の価値観に疑問を投げかける。自身もなかなか人を好きになることがなかったことを明かし、「恋愛をすることが善とか美徳である。それはそれでしたい人がすることはよいことだけど、そうじゃない性も人間にはある」と長年感じていた違和感が今作に「流れ込んできた」と明かした。

 それを受け稲垣さんも「なんか腑に落ちる」と納得の表情をみせ、「僕もすごい好きでした。ふわふわしてる。どんな感じか声に出すと気持ちいい」と同作の心地良い文章を高く評価した。

■産婆は磯田道史さん?

 今作では登場人物の過去の思い出や土地の記憶が蘇り、現実と幻想が入り混じる独特な世界観が描かれる。特に主人公2人が六本木を散歩する場面は今作のキーとなるシーンで、現代の東京ミッドタウンと江戸時代にその場所で行われた「江姫」の火葬の光景が入り交じる。朝吹さんはこのシーンこそ書きあぐねていた今作のターニングポイントとなったシーンだと振り返った。

 2015年、朝吹さんは歴史学者の磯田道史さんと対談の機会があり、2人でタクシーに乗って移動していた。六本木を通りかかったとき磯田さんから、その場所で江姫が大量の沈香木とともに火葬されたとの史実を聞かされる。朝吹さんはその瞬間、現代と400年前の火葬のシーンが重なって見えたという。そして「これは自分がずっと探していた小説の光景だ」と確信を得て、作中で主人公たちが道行くシーンとして採り入れたと解説した。朝吹さんは「本当に大事な産婆さんです」と頭をさげ、磯田さんに感謝をあらわした。

 朝吹さんと磯田さんは同作の刊行を記念し対談を行っている。その場で磯田さんは《いまこそ読みたい作品が眼前にあらわれた、こんなに大きな文学が久しぶりにこの国にあらわれたんだな、というのが『TIMELESS』を読み終えての感想です》と評している。2人の対談全文はこちらから。https://www.bookbang.jp/review/article/554760

「ゴロウ・デラックス」はTBSにて毎週木曜日深夜に放送中。次回の放送は9月13日。ゲストはCBCテレビ・アナウンサーの石井亮次さん。課題図書は『こんにちは、ゴゴスマの石井です』(ワニブックス)。公式サイトでは予告動画を配信中。
http://www.tbs.co.jp/goro-dx/

Book Bang編集部
2018年9月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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