『新世界秩序』
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新世界秩序 21世紀の“帝国の攻防”と“世界統治” ジャック・アタリ著
[レビュアー] 廣瀬弘毅(福井県立大准教授)
◆国際協調の意義を問う
超大国アメリカではトランプ大統領があからさまに自国への利益誘導を図り、アジアでは中国が冷戦後のアメリカ一極集中体制に挑戦している中で、世界秩序の先行きに不安を覚える人も多いだろう。本書は、二十世紀から今世紀にかけて、フランスの政権とも深く関わってきたエコノミストが、新しい世界秩序がどのようなものであるべきかについて、かなり具体的な提案を展開した書である。
だが、本書を手に取った読者は少々面食らうかも知れない。全十章のうち実に六章分が古代から近現代までの世界史のダイジェストとなっており、第七章で現状の分析、残りの第IV部三章分になってようやく未来予測と提案が書かれているからだ。ただ正直に言えば、未来について書かれた第IV部は少々物足りなく感じるかも知れない。それは、トランプの登場、イギリスのEU離脱の国民投票など、世界秩序に大きな影響を与える事件が起きる前の二〇一一年に原書が発行されたからでもあろう。
たしかに本訳書では、コラムの形で新しいトピックにも触れるなど工夫がされている。それでも、著者の理想に近いであろうEU自体が、加盟国の反EU政権の誕生などに揺れている現状では、まずは地域統合の乗り越えるべき課題と解決策の提示などを求めてしまいたくなる。
だが、本書の価値は未来予測や提案にあるだけではない。そもそもいつ、どんな人が「世界の秩序」について考え始めたのか。第二次世界大戦後に曲がりなりにも整えられてきた国際連合などの国際秩序が、なぜ生み出されて来たのか。そしてそれがなぜ不十分な体制のままになったのか、正しく理解している人がどれくらいいるだろうか。そこには、過去の人々の営々とした努力の積み上げと妥協がある。そのことを知らずに、新しい秩序を論じることは、虚(むな)しいだけだろう。
「国家のグローバル化なき市場のグローバル化」が進む現在、我々の進むべき道はあるのか。それを考える材料はむしろ前半にあるのである。
(山本規雄訳、作品社・2592円)
フランスの経済学者・思想家。著書『21世紀の歴史』『アタリ文明論講義』など。
◆もう1冊
イアン・ブレマー著『対立の世紀』(日本経済新聞出版社)。奥村準訳。