「ふつうのおんなの子」のちから 子どもの本から学んだこと 中村桂子著

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「ふつうのおんなの子」のちから 子どもの本から学んだこと

『「ふつうのおんなの子」のちから 子どもの本から学んだこと』

著者
中村 桂子 [著]
出版社
集英社クリエイティブ
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784420310819
発売日
2018/07/26
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「ふつうのおんなの子」のちから 子どもの本から学んだこと 中村桂子著

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

◆丁寧に生きて開花する個性

 『普通。』というタイトルの写真集を出したことがある。女優という立場にいても、中身はフツーの十八歳の女子高生だった。そのギャップに悩み、特別になろうと肩肘(かたひじ)張ってみたこともあった。だけどやっぱり、「普通だね」と言われると、安心し、何よりもうれしかった。だから「ふつうのおんなの子」へのエールのような一冊と出会って、二十八歳までの生き方を肯定してもらえたような気がして、救われた気分だった。

 本書では、「日常の中で接するものやことをよく見て、自分の言葉で考え、納得しながらふつうに暮らす」人を、「ふつうのおんなの子」として括(くく)る。年齢や性別は関係ない。これはまさに、八十歳を越えても心がけている、著者の生き方なのだという。

 ご自身の戦争体験や読書体験、研究されている生命誌を通して、いかに「ふつうのおんなの子」が素晴らしいか、説得力をもった言葉で語られていく。自分で体現し、証明する――。こういう示し方はさすが、研究者!

 『不思議の国のアリス』の不思議の国は、わたしたちの体の中ではないかという説も印象的だった。体が小さくなったアリスが入った新しい世界では、常識が通用せず、ナンセンスなことばかりが起きる。著者が体内の細胞やDNAの研究をする時、それらを身近に感じるために、細胞になったつもりになることがあるという。ファンタジーと科学、通じるものがありそうだ。ちなみにアリスの作者、ルイス・キャロルは数学者だったというから、不思議の国は数学の世界かも? 想像は尽きない。

 日頃出会う本や人、出来事から、さまざまな気付きがある。考えずに通り過ぎることは簡単。だが、「自由に日常を大切に丁寧に生きて楽しむという前向きな気持ち」を持てたら、どれだけ幸福なことだろう。そして「ふつうのおんなの子」らしさは、個性になる。普通が、特別になる。

 今日からわたしの目標は、「ふつうのおんなの子だね」と言ってもらえるような生き方をすること!

 (集英社クリエイティブ・1620円)

 1936年生まれ。JT生命誌研究館館長。著書『生命誌とは何か』など。

◆もう1冊 

 ジーン・ウェブスター著『あしながおじさん』(岩波文庫)。遠藤寿子訳。

中日新聞 東京新聞
2018年9月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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