男たちよ、中年太りは良いことだ!――進化論が教えてくれる男の健康と老化

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男の健康と老化は、女とどう違うのか?(画像はイメージです)

若い頃は駅の階段をスタスタ上がり、重い荷物も平気で持てていたのに、いつの間にやらエスカレーターを利用し、「よいしょっ!」と気合いを入れて荷物を持ち上げいる自分がいる。そして、お気に入りだったジーンズのウエストが、もう合わなくなっている……

筋肉が落ちて、お腹の脂肪が増す――こうして、男たちは我が身にも老化の波が押し寄せてきていることを実感するだろう。

筋肉が落ち、胴回りが増す傾向は、病気ではない。過度な肥満は別として、男の老化として、ごく自然な成り行きである。一般に、格好良くないとされる老化による肥満だが、むしろメリットがあり、進化によって促進さえされてきたとしたら?

進化生物学の最新知見によって、従来の常識をくつがえすのが、リチャード・ブリビエスカス著『男たちよ、ウエストが気になり始めたら、進化論に訊け!:男の健康と老化は、女とどう違うのか』(インターシフト刊)だ。以下、本書の気になるトピックをご紹介しよう。

■男性ホルモンが女性ホルモンに変わるとき

男は女と比べて、基礎代謝率が高く、エネルギーを多く消費する。それは男のほうが身体で消費カロリーの高い筋肉量(特に骨格筋)が多いためである。

骨格筋は、エネルギー投資の面では、不経済で高くつく。にもかかわらず、男の筋肉が発達したのは、進化上の利点があったからだ。狩猟、戦闘、そして何よりも女をめぐる競争――魅力的な男はひ弱ではなく、逞しい(なお、後述するように、男の「逞しさ」には、経験知なども含まれる)。
 
こうした男の筋肉の成長・維持に関わっているのが、「テストステロン(男性ホルモンのひとつ)」だ。年を取るとテストステロン濃度が下がり、そのため筋肉量も減っていく。
すると基礎代謝率やエネルギー消費量も下がる。

がんがんエネルギーを燃やし、筋肉をつけ活発に動いていた若い頃からの大きな転換である(テストステロン濃度は20代でピークに達する)。バイクを飛ばしたり、危いことが好きだった若者も、次第に年相応に落ち着いてくる。

同時に、かつての筋肉の一部が、脂肪へと変わっていく。注目すべきは、脂肪にはテストステロンを「エストラジオール」という女性ホルモンに変換する酵素があることだ。
この「アロマターゼ(芳香化酵素)」という芳しい名の酵素によって、男っぽさを促すテストステロンが女性ホルモンへと変わっていく!

■「ぽっちゃり父さん」仮説

本来、生物にとって、生殖により遺伝子を次世代に伝えていくことこそ進化のかなめにほからならない。生殖のためにエネルギーを使えば、体も劣化し、老化も進む(生殖と寿命のトレードオフ)。だから、ほとんどの哺乳類が、生殖を終えるのとほぼ同じ時期に死ぬ、というのも進化から見れば当然と言える。

ところが、ヒトはこの進化の法則から、大きくはみ出している。女性は生殖が終わっても(閉経)、長い期間を生きるからだ。なぜ、このような異常な現象が進化してきたのか? その説明として、特によく知られているのが「おばあさん仮説」である。

祖母は孫(娘の子ども)の世話をすることで、孫の生存率を高めるとともに、娘の負担も減らすため、娘はより多くの子どもを残すことができる。つまり、間接的にせよ、遺伝子を子孫へと伝える可能性を高めているわけだ。

では、ヒトの男はどうなのか? 男は女と違って、高齢になっても生殖能力は衰えるものの、失われない。現に70代、80代でも、父親になる者がいる。また、そもそも哺乳類で雌雄のペアを形成し、父親として子育てにたずさわるような種はめったにない。それなのに、ヒトでは「ペア形成からオス(男)による子育て」という異例の事態が生まれた。
なぜだろう? 

この疑問に答えるのが、「ぽっちゃり父さん」仮説である。男は年を取るとともに、エネルギー投資を、筋肉から、配偶者や子育てへと振り替えていく。それが、まさにホルモンの変化(テストステロンから、エストラジオールへ)や、体型の変化(筋肉質から、ぽっちゃりへ)として表れるのだ。

実際に、テストステロンは免疫力を弱め、エストラジオールは強めることがわかっている。興味深いことに、若いうちに父親になった者も、テストステロンのレベルが下がる傾向がある。一方、テストステロン濃度の特に高い集団では、前立腺がんのリスクや死亡率が高まる。

また、ペアを形成(端的には結婚)したり、父親になると、「オキシトシン」が増える。オキシトシンは愛情ホルモンとも呼ばれ、ペアの相手や子どもとの絆を高める働きをする。ペア形成した男や父親になった男のほうが、より健康で死亡率も低いというデータもある。

男性がより健康で長生きすることは、子どもの生存率が高まったり、子どもをより多くもうけられることにつながる。つまり、遺伝子をより多く子孫に伝えられることになり、そこには明らかに進化的メリットがあるのだ。

さらに、男の競争力や成功には、体力があることだけではなく、経験や知識も欠かせない。狩猟採集民でも、狩りの成功率は、若い男より、それなりに年を取った男のほうが高い(40代で最高)ことがわかっている。現代社会でも、政治や経済の権力を握る男たちの多くは年を取っており、経験知が豊富だ。男は白髪になっても「ロマンス・グレー」などと呼ばれ、もてたりするのも、進化的な背景があるにちがいない。

いかがだろう? 環境や個体による相違はあるけれども、あらゆる生物は進化のレールの上で生まれ、老い、死んでいく。われら人類もまた、その例外ではない。進化論はこうした大きなレールの上から、私たちの健康と老化について新たな発想を与えてくれるのだ。

インターシフト
2018年10月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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