第31回柴田錬三郎賞が決定 奥泉光『雪の階』が受賞

文学賞・賞

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 第31回柴田錬三郎賞が1日に発表され、奥泉光さんの『雪の階』(中央公論新社)に決まった。

 受賞作『雪の階』は、親友の心中事件に疑問を抱いた主人公・惟佐子が、新米カメラマンの牧村千代子と共に、ドイツ人ピアニスト、新聞記者、主人公の兄であり軍人の惟秀などを介し、事件の真相に迫るミステリー小説。

 文芸評論家の池上冬樹さんは、《二・二六事件の一年前から事件当日までを綿密に描きつつ、天皇機関説をめぐる華族と軍部の緊迫した対立、ドイツや日本における民族至上主義的な言説、心霊音楽協会、神的人種、霊視能力などオカルト的な要素も満載して、虚実の境界の幻惑をたくらんで読者に目眩(めまい)を覚えさせる》と本作について触れ、《相変わらず推理作家も顔負けのプロットは巧緻だし、記憶のイメージの収斂(しゅうれん)や伏線の回収も見事。特に自由自在に視点が移動する滑らか極まりない語りは至福そのもの》(波・書評)と評している。( https://www.bookbang.jp/review/article/550945

 著者の奥泉光さんは、1956年山形県生まれ。1986年にすばる文学賞に応募した「地の鳥天の魚群」が最終候補になり、後に「すばる」に掲載され小説家としてデビュー。1993年に『ノヴァーリスの引用』で野間文芸新人賞、1994年に『石の来歴』で芥川賞、2009年に『神器』で野間文芸賞、2014年に『東京自叙伝』で谷崎潤一郎賞を受賞。2012年より芥川賞選考委員。近畿大学教授を務める。

 受賞作の発表と選評は、「小説すばる」(12月号)に掲載される予定。なお、贈賞式11月16日、東京都内のホテルで行われる。

「柴田錬三郎賞」は、柴田錬三郎の業績を称えて1988年に創設された文学賞。前年七月一日から、本年六月三十日までに刊行された小説を対象とし、現代小説、時代小説を問わず、真に広汎な読者を魅了しうる作家と作品に与えられる。第31回の選考委員は、伊集院静、逢坂剛、長部日出雄、桐野夏生、林真理子の5氏が審査を務めた。

Book Bang編集部
2018年10月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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