Yahoo!検索大賞受賞! 口下手なカラテカ・矢部太郎が皆を号泣させた「手塚治虫文化賞贈呈式」受賞スピーチ全文

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感極まり思わず涙する矢部さん
感極まり思わず涙する矢部さん

 Yahoo!検索大賞2018が12月5日に発表された。同賞は、前年と比較してYahoo!で検索数が最も急上昇した人物らが選ばれ表彰されるものだ。
 パーソンカテゴリーでは、大賞のKing&prince、俳優部門の中村倫也、お笑い芸人部門のひょっこりはん、アスリート部門の羽生結弦、ミュージシャン部門の安室奈美恵など、錚々たる面々と並び、作家部門でお笑いコンビ・カラテカの矢部太郎さんが受賞した。

 【試し読み】矢部太郎『大家さんと僕』を読む

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 なぜお笑い芸人の矢部さんが作家部門なのか…と訝しむ向きもあるかもしれないが、昨年10月に刊行したコミックエッセイ『大家さんと僕』が、現在までに累計74万部を超えるベストセラーとなり話題となっているのだ。
 5日に行われた発表会に出席した矢部さんは、受賞の喜びを「やっぱり、もうお伝えすることはできないんですけど、モデルの大家さんに伝えたい」とし、「作家部門賞を検索したら、去年は(ノーベル文学賞の)カズオ・イシグロさんが受賞してました。カズオさんの次にタロウ・ヤベでいいのかと」と笑いを誘った。

 矢部さんは、今年4月には芸人として初の快挙となる「手塚治虫文化賞短編賞」を受賞。Yahoo!検索大賞の「一緒に検索されたキーワード」には「受賞スピーチ」という言葉が入っているが、同賞の贈呈式で、矢部さんが行った受賞スピーチが感動的だと話題になったのだ。
 日頃はシャイで口下手な矢部さんだが、その熱く真摯なスピーチに会場中が涙したという。以下、Yahoo!検索大賞受賞を記念して、皆を泣かせた矢部さんの受賞スピーチ全文を改めて掲載する。

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(贈呈されたブロンズのアトム像をじっと見つめながら)あ……ありがとうございます……。思った以上にアトム像が重いです……。

 この度は手塚治虫先生という「漫画の神様」のお名前がついた賞を受賞させて頂きまして、大変光栄です。神様をも畏れぬことを思い切って言わせて頂きますと、手塚先生はどんなに売れっ子になられても、若い作家の先生の作品を読んで嫉妬されることがあったというお話を聞いたことがありまして、天国の手塚先生に、僕の本を読んで頂き、そしてほんの少しでもいいので嫉妬して頂けたら、嬉しいです。この賞がそういうものだったらいいな、と思います。

 僕はいま40歳で、38歳のときに漫画を描き始めました。38歳で漫画家になると言ったら、普通は周囲が全力で止めると思うのですが、僕の場合は、「作品にした方がいいよ」と言って下さった方がいました。倉科遼先生は僕の漫画をとても褒めて下さって、自分が自費出版してでも出したいと言って下さいました。相方の入江くんもすすめてくれて、入江くんの方は僕はあんまり覚えていないんですが、本人がそう言うので、そうなんだと思います。
 だから、新しいことに挑戦するのが苦手な僕ですが、描き始めることができました。他にも、デジタルで描いているので、文明の利器に助けられたということもあると思います。

 でも一番は、大家さんがいつも、「矢部さんはいいわね、まだまだお若くて何でもできて。これからが楽しみですね」と言って下さっていたのですね。ご飯を食べていても、散歩をしていても、ずっといつも言って下さるので、本当に若いような気がしてきて、本当に何でもできるような気がしてきて……。これはあまり人には言っていないのですが、僕の中では、38歳だけど18歳だと思うようにしていました。だからいま、20歳(ハタチ)なんです。何を開き直っているんだと思われるかもしれませんが、これは本当に効果があって、10代だと思ったら大概の失敗は許せました。

 人生何があるか分からないとよく言いますが、中学生の頃、図書室でひとりで『火の鳥』を読んでいた僕が、いまここにいるなんて思いもよらなかったですし、芸人になって長く経ち、次第にすり減り、人生の斜陽を感じていた僕がいま、ここにこうしていることも、半年前には想像もつきませんでした。
 それでも、あの頃、全力で漫画を読んでいたこととか、芸人として仕事をして創作に関わってきたこととか、子供の頃、絵を描く仕事をする父の背中を見ていたこととか、なんだかすべては無駄ではなく、繋がっている気がしています。それは僕だけじゃなく、みんながそうなのではないかとも思います。

 お笑い芸人が僕の本業なのですが、人前でうまくしゃべることが苦手です。そんな「うまく言葉にできない気持ち」を、これからも少しでも漫画で描いていけたらと思っています。
 本日は本当にありがとうございました。

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コミックエッセイ『大家さんと僕』を読む
https://www.bookbang.jp/comic/ooyasantoboku

Book Bang編集部
2018年12月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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