釜ヶ崎合唱団 労働者たちが波乱の人生を語った 釜ヶ崎炊き出しの会編著

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釜ヶ崎合唱団<労働者たちが波乱の人生を語った>

『釜ヶ崎合唱団<労働者たちが波乱の人生を語った>』

著者
釜ヶ崎炊き出しの会 [著、編集]
出版社
ブレーンセンター
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784833905527
発売日
2018/11/22
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

釜ヶ崎合唱団 労働者たちが波乱の人生を語った 釜ヶ崎炊き出しの会編著

[レビュアー] 福島泰樹(歌人)

◆繁栄支えた人々の現実

 「釜ケ崎」は大阪市西成区北部にあって簡易宿泊所、日雇い労働者が集まる地域の旧地名で、現在は「あいりん地区」と呼ばれている。その労働力は万博、空港、海峡大橋、湾岸道路など大阪の繁栄に大きく寄与してきた。しかし、地区居住者たちの生活は「繁栄」とはほど遠い。

 「釜ヶ崎炊き出しの会」が発足したのは一九七五年十二月。以来四十三年、一日も休むことなく朝と夕の二回、雑炊を提供。その延べ数は、実に七百四十九万食を超える。資金と賄いは、支援とボランティアの人々による。行政は見向きもしない。ほどなく会の機関誌「絆通信」が誕生。

 十六頁(ページ)の小冊子で刊行は年四回。中に「こんにちは、がんばってます!」と題するインタビューコーナーがある。

 登場する人々は、大正九年生まれの安藤さんから、昭和五十五年生まれの岡島さんまで、北海道から沖縄に至る日本全国津々浦々から出立、人生のさまざまの旅路を経て釜ケ崎に辿(たど)り着いた人々だ。彼らの声が一冊となった。

 池田さん(かつて「反権力の象徴」と謳(うた)われた一条さゆり)を巻頭に、六十四人の人々が「波乱の人生」を語る。その底流には、大正、昭和、平成という時代が人々の実人生と絡み合いつつ、のたうつように渦巻いている。 

 十六歳で施設を出る(大阪万博の時代だ)。上京、日雇いとなり、山谷(さんや)越冬闘争に加わる。二十代半ばに釜ケ崎へ、大飯(おおい)原発建設現場で働く。

 あいりん総合センターで鹿児島出身の老人と出会い、十数年間生活を共にし、初めて「一緒に帰る場所がある」喜びを知る。いまは駅構内で夜を過ごし、自身の老いと向き合う。昔の闘争仲間に会ったら、「ご覧のとおり、地べたをはって土に還(かえ)るだけ」と答えると笑う後藤さん。「アパート生活が送れたら、それに勝る幸せはない」とは元左官屋の山本さんの言。 

 巻末に至り、生活保護受給者からの炊き出しカンパの事実を知り、涙を拭った。路上にあって「生老病死」の厳しさを生きる人々に、自らの生を糾(ただ)さねばと思った。

 (ブレーンセンター・2700円)
 稲垣浩代表。大阪市西成区萩之茶屋2の5の23、釜ケ崎解放会館1階。

◆もう1冊 

 多田裕美子著『山谷(さんや) ヤマの男』(筑摩書房)。写真とエッセー集。

中日新聞 東京新聞
2019年2月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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