「ぱいぱいでか美」という芸名からは想像もつかない“常識的”自伝

レビュー

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桃色の半生!

『桃色の半生!』

著者
ぱいぱいでか美 [著]
出版社
リットーミュージック
ISBN
9784845633500
発売日
2019/02/22
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

芸名は破天荒でも見え隠れする常識的人柄

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 芸名がひどすぎて『有吉反省会』に呼ばれたはずなのに気が付いたら番組のレギュラー出演者になっていた、芸名ほどには巨乳じゃない女・ぱいぱいでか美。彼女の自伝にどれだけのニーズがあるのかは誰も知らないが、ひどい名前とは違って基本、真面目で常識的な人だからすごくちゃんとした本に仕上がっている。

 ただし、イベントとかでのトークスキルの高さ&ぶっちゃけぶりを思うと、かなり抑えめ。波乱万丈なエピソードはあるのに、他人に迷惑を掛けてはいけないという常識がブレーキをかけているせいか、タレント本としてのダイナミズムには致命的に欠けているわけなのだ。

 たとえば彼女は高校3年で周りがみんな受験モードになると、「みんなの邪魔をしたくないから(学校に)行きたくないという歪んだ気持ちを持つようになりました。誰にも邪魔とか言われてないのに! こうして勝手に塞ぎ込んでしまった私は、眠れなくなったり、ひどく落ち込むようになってしまいました。見かねた母がメンタルクリニックへ連れて行ってくれた結果は鬱病。精神安定剤や睡眠薬を処方されたときはまさか自分が精神疾患だなんて思っていなかったので、結構ショックでした」と振り返る。おそらく、病んだ理由は他にもあったと思うが、そこにはあえて触れようとしないのだ。

 大学時代の恋愛でも彼氏と揉めて警察を呼ばれたとか、カーペットを燃やしたとか告白するけれど、そこにも誰かを責めるような記述はない。巻末に掲載された両親のコメントで、彼女が5歳のときに突然「お母さん、金は女を裏切らない!」と言い出したという面白エピソードも出てきて、幼少期は金銭的に困っていたのかとも思ったが、そんな記述もない。結局、自伝は適度に嫌な人とかエゴが強い人とかが書くべきだと痛感したのであった。そういう意味では巻末対談でいい感じの自虐ギャグを連発するゲスの極み乙女。の川谷絵音には向いてそう!

新潮社 週刊新潮
2019年3月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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