ドイツのベストセラー作家の「閉鎖空間タイムリミット・サスペンス」第2弾

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座席ナンバー7Aの恐怖

『座席ナンバー7Aの恐怖』

著者
セバスチャン・フィツェック [著]/酒寄 進一 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784163909929
発売日
2019/03/08
価格
2,475円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

空で、地上で、進行する衝撃的な閉鎖空間サスペンス

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 昨年『乗客ナンバー23の消失』で話題を呼んだドイツのベストセラー作家の〈閉鎖空間タイムリミット・サスペンス〉第二弾。このキャッチコピーは日本独自のものだが、『乗客ナンバー』は大西洋横断中の豪華客船で怪事件が連続するサスペンスものだったし、なるほどいい得て妙。

 今回は洋上から空の上に転じるが、出だしは地上。HIV感染患者の妊婦ネレはDV男の元恋人から逃れ、何とか出産にこぎつけようとしていたが、病院に向かおうと乗ったタクシーの運転手に拉致される。

 一方、彼女の父で南米ブエノスアイレス在住のマッツ・クリューガーは娘の出産に立ち会うべく空路ベルリンへ向かおうとしていたが、彼は精神科医であるにもかかわらず、重度の飛行機恐怖症だった。しかも、動揺を抑えて飛び立った彼のもとに、娘を誘拐した、いう通りにしないと娘を殺すという脅迫電話がかかってくる。同じ飛行機に彼の元患者が乗っている、それを捜し出して暴力的空想を起爆させ、飛行機を墜落させろというのだ!

 誘拐犯がネレにいう「きみの母乳が欲しいだけだから」というセリフにキモい猟奇犯罪を予感させられたのもつかの間、クリューガーへの脅迫電話はそれをさらに上回るインパクト。衝撃度においては、『乗客ナンバー』以上かも。

 いや、閉鎖空間ものとはいったけど、実は追い込まれるのはネレとて同様だし、さらにクリューガーは娘の行方を追うのに友人の精神科医フェリに助けを求め、このフェリが自らの結婚式を控えた身だというのに、ネレの手がかりを求めて奔走し始めるのである。つまり空の上だけでなく、地上での拉致・監禁譚と追跡譚を交えた三元中継で迫るサスペンス演出なのだ。『乗客ナンバー』の帯にあった「事件解決――? そう思ってからが本番。」という惹句もまだ活きている。今年も年末ベストテンを賑わせてくれるだろう上々の仕上がりだ。

新潮社 週刊新潮
2019年4月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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