社員の幸せを追求する会社が成長するワケ――ほんとうに大切な「あたらしい働き方」のお手本

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会社が働き方の自由度を高めるときの、3つの原動力とは?

一定のルールの中で出勤や退勤の時間をずらすことができるフレックスタイム制、自宅や外出先など働く場所の選択肢を増やすテレワーク(リモートワーク)など、日本ではいま、従業員の働き方の自由度を高めていく流れが加速しています。

しかし、「働き方を変えるのは難しい……」と二の足を踏んでいる会社も少なくありません。また、「新しい働き方を取り入れるぞ」と動き出したものの、失敗に終わってしまった会社も多いかもしれません。

働き方専門ライターとして「これからの働き方」や「新しい組織の形」をテーマに数多くの取材を行なっている、やつづかえりさんによると、より自由な働き方を実現しようとする会社の原動力は大きく3つに分類できるそうです。

1. 流行に乗って

ひとつは「流行に乗る」というもの。世の中の「働き方改革」ムードに「我が社も何かしなければ」と、在宅勤務制度を取り入れてみたりする、というもの。これは、失敗につながりやすい原動力です。

もちろん、流行に乗ることが必ずしも悪いわけではありませんが、新しい制度を導入するなら、自社にとって「なぜそれが必要なのか」を考えて社員の共通認識にする必要があります。それがないと、現場の社員は必然性を感じられず、悪くすると「仕事をやりにくくする悪制度」ととらえられ、上手に活用されることはないでしょう。

2. 必要に迫られて

2つ目は、人材の確保・維持のために必要に迫られて、というもの。現在、多くの業界や職種が人手不足に喘いでいます。この状況は少子高齢化によってますます深刻になっていくでしょう。

優秀な人材を引きつけるために会社の魅力のひとつとして自由度の高い働き方を掲げ、毎日定時に出勤するという働き方ができない人でもいいから必要な労働力を確保しよう、というわけです。

この場合も、「本当は毎日定時に出社してほしいけれど、仕方がない……」と、新しい制度を“必要悪”と考えてしまうと、多様な働き方をする人たちをとりまとめる管理職や、“従来型の”自由度の低い働き方をしているまわりの同僚の負担感が増してしまう可能性があります。

3. 自由と自律がもたらす効果に期待して

3つ目が、社員に自由を与えることの意味をよりポジティブにとらえているケースで、最も成功につながりやすい原動力です。

「仕事とは、みんなが決められた時間に一箇所に集まってするもの」という常識を疑い、もっと自由にした方が生産性も社員の幸福度も上がるのではないか。そう考える会社があります。

ここでは、この3つ目のケースに当たる事例として全社員に平日の6時~21時の間であればいつどこで働いてもよいという自由を与えたユニリーバ・ジャパンの取り組みを、やつづかさんの著書『本気で社員を幸せにする会社』から見てみましょう。

(本稿は同書第2章「『ワークスタイル』の見直しで、会社も社員も幸せになる」の一部を抜粋、再編集したものです)

「いつ、どこで働くのも自由」にしたら、生産性も人生の充実度も向上

シャンプーや石鹸、紅茶など、さまざまなコンシューマー向けブランドを扱うユニリーバの日本法人、ユニリーバ・ジャパンは、2016年7月に新しい働き方の制度「WAA」を導入しました。

「WAA」は、Work from Anywhere & Anytimeの略で「ワー」と読みます。この制度によって、ユニリーバ・ジャパンの社員は働く場所と時間を自由に選べるようになりました。ユニリーバ・ジャパンのウェブサイトには、「WAA」の説明として以下の3項目が掲げられています。

・上司に申請すれば、理由を問わず、会社以外の場所(自宅、カフェ、図書館など)でも勤務できます。

・平日の6時~21時の間で自由に勤務時間や休憩時間を決められます(1日の標準労働時間は7時間35分、1カ月の標準勤務時間=標準労働時間×所定労働日数とする)。

・全社員が対象で(工場、営業の一部を除く)、期間や日数の制限はありません。

https://www.unilever.co.jp/sustainable-living/WAA/about-WAA/

たとえば自宅で朝6時から仕事をした後、ジムで一汗かいてからオフィスに出勤することも可能ですし、子どもを保育園に迎えに行くために早めに仕事を切り上げなければいけないという人は、子どもが寝た後に残った仕事を片づけたりすることもできるのです。

在宅勤務をはじめとするテレワークの問題点としてよく挙がるのが、「働きすぎてしまう」という点です。社員が目の届かない場所で仕事をすることになるので、「サボるんじゃないか」と心配する経営者や管理職の方も多いのですが、実際は逆なのです。

「サボっているのではないか」と思われることへの恐れや、一生懸命仕事に取り組む姿を見せられないからこそ「しっかりしたアウトプットを出さなければ」という思いや、終業時間のチャイムや周囲の人たちが帰っていくというような“仕事を終えるきっかけ”がないことなどから、ついついがんばりすぎてしまうのです。

ユニリーバ・ジャパンでは、「WAA」の開始と同時に残業は月45時間までという目標も掲げ、働きすぎを抑止しています。この残業時間の目標と最初に挙げた3つのシンプルなルール以外に細かい規定はなく、社員の自主性にまかせているとのこと。一般的な会社員と比較して非常に自由度が高い働き方が認められているといえるでしょう。

・WAAで生産性の向上を社員が実感

同社では社員に対して定期的にアンケート調査を行ない、「WAA」の利用状況や利用による変化を尋ねています。

「WAA」を一度でも実施した人は、以下のとおり時間とともに拡大しています。頻度は月1~2回が4割程度で最も多く、次に週1~2回が2割程度でした。

〈「WAA」実施者の推移〉
・制度開始から1カ月後 68% 
・3カ月後 88%
・6カ月後 89%       
・10カ月後 91%

導入後10カ月の時点でのアンケート結果によれば、以前より「労働時間が短くなった」と感じている社員が全体の4分の1にのぼります。実際の残業時間も平均10~15%削減されました。また、残業時間が80時間を超える社員は、「WAA」導入以前は多いときは月15人前後いましたが、月0~1人に減少しました。

また、67%の社員が「新しい働き方により、毎日が良くなった」、75%の社員が「生産性が上がった」と回答しています。社員が「WAA」をポジティブにとらえており、だからこそ利用者が定着していっているのだろうと推察されます。

日本実業出版社
2019年5月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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