アダム・スミスはブレグジットを支持するか? 12人の偉大な経済学者と考える現代の課題 リンダ・ユー著

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アダム・スミスはブレグジットを支持するか?

『アダム・スミスはブレグジットを支持するか?』

著者
リンダ・ユー [著]/久保 恵美子 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784152098566
発売日
2019/04/18
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

アダム・スミスはブレグジットを支持するか? 12人の偉大な経済学者と考える現代の課題 リンダ・ユー著

[レビュアー] 中村達也(経済学者)

◆今の中国をマルクスの目で

 ケインズの『一般理論』の中に、こんな一節がある。「経済学者や政治哲学者の思想は、それが正しくても誤っていても、一般に考えられているよりは強力である。(中略)自分はいかなる学問的影響も受けていないと考えている実務家たちも、大抵はすでに亡くなった経済学者の奴隷となっているのだ」。レジェンド経済学者たちの思想は、時代を超えてその影響力が及んでいるというのである。

 ところが、通常のテキストブックでは、それぞれの学者が生きた時代とその学者の思想がどう関わっているかは説明されるものの、現在と直接関わらせてその思想が語られることは稀(まれ)である。それを可能にするには、いま目の前にある現実が投げかける意味を見抜くジャーナリストの目と、学説史を現在に引き寄せて読み解く研究者の目の、複眼的な構えが要求される。本書が試みたのは、まさにこれである。

 取り上げられるのは、スミス、リカード、マルクス、ケインズ、シュンペーター、ハイエク等、十二人の名だたる経済学者。例えば、イノベーションと創造的破壊こそが資本主義経済のエンジンだと説いたシュンペーター。高度経済成長期の日本におけるソニーやホンダの起業家精神に触れながら、そうしたダイナミズムが消えうせて「失われた数十年」の中で低迷する日本経済の現在が語られる。

 あるいは、グローバル化の大波にさらされて、仕事と収入を失った人たちが、アメリカではトランプ大統領を誕生させ、イギリスではEU離脱(ブレグジット)の国民投票を後押しした。競争市場の意義を説いたスミスや、自由貿易の利益を強調したリカードならば、こうした事態をどう説明するかを思考実験する。

 はたまた中国の現状に触れて、経済の側面では資本主義的な市場経済、政治の側面では共産党の一党独裁というねじれ現象を、マルクスならどう評価するのか等々。学説史上のしかるべき時代に収まっていた十二人の経済学者を、現在に呼び寄せて対話を試みた意欲的一冊。
(久保恵美子訳、早川書房・2916円)

エコノミスト、キャスター。オックスフォード大フェローや北京大客員教授などを兼務。

◆もう1冊 

R・L・ハイルブローナー著『入門経済思想史-世俗の思想家たち』(ちくま学芸文庫)

中日新聞 東京新聞
2019年6月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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