『一生使える「段取り」の教科書』
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大切なのは全体の2割。仕事の優先順位付けと取捨選択を習慣化しよう
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『トップ1%が大切にしている仕事の超キホン 一生使える「段取り」の教科書』(鳥原隆志著、大和出版)の著者は30代になったころ、壁にぶつかったことがあるのだそうです。
朝から晩まで仕事をしているのに、すべて中途半端に終わったり、正論を主張しているのに受け入れられなかったりと、苦しい時期を送ったというのです。
そんな私の仕事の仕方が変わったのは「インバスケット」というツールに出会ってからでした。 インバスケットとは仕事のシミュレーションツールです。架空の立場になり、限られた時間の中で多くの案件を処理していくゲームです。
ゲームを通じて仕事の進め方からその内容、また仕事への姿勢までが明らかになります。「はじめに あなたの仕事の進め方が劇的に変わる!」より)
インバスケットに初めて挑戦したとき、自分の書いた処理内容に衝撃を受けたのだとか。
たとえば仕事の進め方については、前半の案件は細かい部分まで処理をしていたにもかかわらず、後半は時間に追われて大雑把になり、最後には途中で終わってしまっているような状態。
また仕事を抱え込み、ほとんどの仕事を先送りにすることになっていたから。
トラブルが起きても火消しに躍起になり、肝心の原因究明や再発防止などはまったくない。
とてつもなく段取りが悪く、表面的な自分の仕事ぶりにショックを受けたというのです。
そのため「どうすれば多くの仕事を精度高く結果を残せるように処理できるのか」と研究しはじめ、やがてサクサクと仕事を進め、ラクラクと結果を残す段取り術を見つけたのだそうです。
そこで本書では、インバスケットの考え方をベースとしながらも、あえて「段取り」をテーマとして掲げています。
「段取り」を、「限られた時間のなかで結果を残せる仕事そのものへの考え方」として紹介しているのです。
明かされているのは、優先順位のつけかたや、ラクに結果が出る仕組みづくり、障害が発生しないようにする根回しなど。
きょうは第2章「本当にしなければならないのは2割 ーー優先順位と取捨選択」のなかから、2つの要点をピックアップしてみたいと思います。
優先順位づけを習慣にする方法ー習慣化の“3つのメリット”
いままですべてのことに全力投球してきた人にとって、取捨選択や優先順位設定などは、頭でわかっていたとしても実践は難しいもの。
なぜなら誰かから仕事を頼まれたとしても断るのは心苦しく、受けたほうがラクだと考えてしまうから。
また、仕事で手を抜くという罪悪感につながってしまうこともあるでしょう。
著者も会社員時代は、「すべて完璧」をモットーに仕事をしていたのだといいます。朝から晩まで、休みの日も職場へ行き、自分の担当の仕事を完璧にこなすことを目指していたというのです。
ところが当然バタバタ状態が続くことになり、ミスがミスを生むような悪循環に陥ることに。
それはインバスケットについても同じ。「限られた時間のなかですべての案件を完璧に処理するにはどうするべきか?」というテーマが、著者のインバスケット研究の第一歩だったというのです。
そして研究を進めるうち、「ひょっとして、すべての仕事を完全にこなすことは不可能なのではないか」と気づいたのだといいます。
そこで「やるべきこと」の順番をつけはじめたものの、優先順位づけはなかなか困難。しかしそんななか、徐々に順番をつけることができるようになったのは、次のような「3つのメリット」を強く意識したから。
1. 時間的余裕が生まれる
無駄なことを取り除くため、物理的に時間が生まれるということ。たとえば飛行機に乗る際、時間ぎりぎりに乗り込むよりも、時間的に余裕を持たせたほうがよりよいわけです。
2. 精神的余裕が生まれる
リスト化や取捨選択によって、「なにかわからないが、やることがたくさんある」という状態から脱却することが可能。
逆に精神的な余裕がなくなると、同僚や部下に挨拶されても作業の手を止めずに返事してしまったり、相手の話が終わらないうちに自分の言いたいことをかぶせてしまったりするもの。すべては仕事に追われている状態、つまり精神的余裕に起因しているということです。
3. 計画的余裕が生まれる
優先順位をつけると、ぎちぎちの計画にならなくてすむもの。そしてその結果、起こった緊急案件にもすぐ対応できたり、計画が組み替えやすくなるわけです。
これら「3つの余裕」は、仕事の質を高める効果をもたらすもの。また余裕があるからこそ、仕事の先回りである「段取り」を考えることが可能になります。
そこで著者は、メリットを意識して優先順位をつけてみることを勧めています。(61ページより)
本当にしなければならないのは?ー20:80の法則
「パレートの法則」は、イタリアの経済学者であるヴィルフレド・パレートが提唱した経験則。
「社会の8割の所得は、上位2割の富裕層によって得られている」というもので、ビジネスの世界でも用いられていますが、この法則は段取りにおいてもあてはまるのだといいます。
完璧な準備をしようとして準備が間に合わないよりも、重要な2割を押さえていれば8割段取りが終わったといえるわけですつまり重要なのはすべてではないということなのです。(68ページより)
しかし現実的に私たちは、できるだけ仕事の数を減らそうと、簡単なものや目の前のものから処理してしまいがち。
ところが8割の仕事が減ったとしても、重要な2割が処理されていなければ、仕事の大半はできていないことになってしまうわけです。
だからこそ優先順位をつけて仕事をサクサク勧めたいのであれば、「大事なもの」と「そうでないもの」を区別する必要があるということ。
もちろん基本的にはすべてを大事なものと考えていたわけですから、現実的に分けることは困難かもしれません。
しかしそんなときは半ば強制的に、「大事な2割」と「そうでない8割」を分けることで取捨選択が可能になるそうです。
ただし最初から8割を捨てとろいうことではなく、30:70でも50:50でもOK。とにかく「捨てる基準値」をつくることが必要だということです。
そうすれば、いままでよりも力をかけることなく仕事がサクサク進むようになるといいます。(66ページより)
紹介されているのは誰にでもすぐできることばかりで、著者によればそれらは、いわば仕事の基本。
スピーディで無駄な動きがなく、安定した結果を出し続けることができ、結果の精度も高い、そんな洗練された仕事を目指すことができるのだといいます。ぜひとも、取り入れてみたいところです。
Photo: 印南敦史
Source: 大和出版