奄美のノネコ 猫の問いかけ 鹿児島大学鹿児島環境学研究会編

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奄美のノネコ ─猫の問いかけ─

『奄美のノネコ ─猫の問いかけ─』

著者
小栗有子 [著]/星野一昭 [著]/鹿児島大学鹿児島環境学研究会 [編]/大寺聡 [イラスト]
出版社
南方新社
ISBN
9784861244001
発売日
2019/04/29
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

奄美のノネコ 猫の問いかけ 鹿児島大学鹿児島環境学研究会編

[レビュアー] 宮晶子(ジャーナリスト)

◆野生化猫 排除をめぐって

 ノネコという言葉をご存じだうか。飼い猫や野良猫と同じ「イエネコ」種だが、山中に捨てられたり人から離れて野生化したりすると、ノネコと呼ばれる。同じく野生化した犬はノイヌという。ともに法的には愛護動物ではない。

 ノネコは世界各地の島しょ部で繁殖し、ときに希少生物を捕食してその生態系を脅かす。国際自然保護連合の「侵略的外来種ワースト100」に入れられ、ニュージーランドなどでは駆除が行われている。日本では、世界自然遺産登録が期待される鹿児島県の奄美大島と徳之島で、ノネコが希少生物のアマミノクロウサギなどを捕食することが問題になってきた。そして環境省と県などは昨年、ノネコを捕獲し、譲渡先がない場合は殺処分する「ノネコ管理計画」を始めた。

 本書は、ノネコ対策について、関係する行政や住民、保護団体などの取り組みや意見をまとめたものだ。多くの人にとって奄美のノネコ問題は、遠い島の特別な事例に思えるだろう。しかし本書の冒頭で編者は指摘する。「ノネコ問題の最大の特徴は、誰もが問題の当事者になりうる点である」。というのも、ノネコは駆除すべき外来種でありながら、長く人と身近に暮らしてきた動物でもあるからだ。「ノネコ問題は、一人ひとりの動物観の違いを投影し、西欧と日本という文化の違いがさらに問題を複雑にする」。実際、この管理計画には日本各地の動物愛護団体から反対意見が巻き起こっている。

 本書にも紹介されているが、東京都小笠原村でも海鳥を保護するため、ノネコの捕獲が行われてきた。ここでは捕獲された七百七十匹以上が内地の獣医師らに引き取られ、時間をかけて人に慣らされ、飼い猫として譲渡されている。猫ブームのいま、保護猫も身近になり、奄美のノネコも各地で譲渡され始めている。

 猫はもともと人間によって世界に広がった動物だ。ペットとして見るだけではなく、人が影響を及ぼしてきた生き物の一例として考えるきっかけに本書はなるだろう。

(南方新社・2160円)

鹿児島大が二〇〇八年に設立した学問分野横断型の研究プロジェクト。

◆もう一冊

渋谷寛監修『ねこの法律とお金』(廣済堂出版)

中日新聞 東京新聞
2019年6月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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