【聞きたい。】イシズマサシさん 『あっちがわ』
[レビュアー] 加藤聖子
■想像力が生み出す恐怖
まず、表紙が怖い。道に立ち尽くす白い目の少年の発する不気味なオーラ。思わず目を背けたくなるが、怖いもの見たさか、どうしても目が合ってしまう。どこにでもありそうな町並みも、鮮やかな青い空も、なぜか不安をかき立てる。
今、読めば読むほど恐怖が増す絵本『あっちがわ』が話題だ。作者は、作家のイシズマサシさん。怖い話が好きで、20代の頃から基となるスケッチを描き、構想を温めていたという。
「好きなことをやらせてもらったので、描いている間、すごく幸せでしたね。自分の生まれ育った広島の昔の風景や、今のイメージ、幼い頃の愛読書、小学生の時に行った万博のパビリオン…記憶の中に残っていたたくさんの経験やイメージから、自分なりの“恐怖”を紡いでいきました」
収録されているのは「かげ」「みどりのしょうぼうしゃ」など全15話。見開きで一話の、ショートストーリーで構成されている。どの話も、誰もが体験してきたようなありきたりの日常が舞台だ。白い目の少年は、己の分身となり、日常のすぐ側にある「あっちがわ」への扉を開けていく。
「暗闇からワッと驚かすようなのとか、全部過程を見せてしまうような恐怖って、あまり好きじゃないんですよ。昼間の明るい空の下、隣にいたものがスッと消えるとか…そういう怖さを表現しました」
その言葉通り、どの話もゾーッと鳥肌が立つような、ジットリした恐怖を呼び起こす。不可解な話の「その後」は語られることなく、自分で想像するのみ。人によっては、違う結末を思い浮かべているのかもしれない。
「想像力があれば、どこまででも恐怖は生まれるんですよ。恐怖って大人が説明して与えるものではなく、こういうものをきっかけとして頭の中で作られていくものだと思うんです」
真の恐怖は、想像力の中にある。(岩崎書店・1400円+税)
加藤聖子
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【プロフィル】イシズマサシ
昭和38年、広島県生まれ。本名・石津昌嗣。武蔵野美術大卒。作家。著書に『関西ルインズ』(東方出版)、『どうして そんなに ないてるの?』(えほんの杜)など。