ウチナー 三大抵抗者の伝説 当山久三(とうやまきゅうぞう)・謝花昇(じゃはなのぼる)・平良(たいら)新助 大下英治著

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ウチナー 三大抵抗者の伝説 当山久三(とうやまきゅうぞう)・謝花昇(じゃはなのぼる)・平良(たいら)新助 大下英治著

[レビュアー] 中沢けい(作家)

◆自由民権から移民運動へ

 三十八年ほど前に初めて沖縄を訪ねた。薩摩による支配から琉球処分を経て大和の支配、そして沖縄戦から米国支配を経て本土復帰した一九七二年から九年目の沖縄だった。書店をのぞけば、沖縄独立論を掲載した沖縄県内向けの総合雑誌が平台に並び、薩摩支配を記述した研究書も並んでいた。古い琉球の風俗信仰と米軍支配下の雰囲気が色濃く残る那覇であった。

 本書を読むうちに、三十八年前の書店の光景がありありと浮かんできた。薩摩支配は近代以前の話だと思い込んでいた自分の不明に気づいたのである。

 明治十五年、東京への沖縄県派遣生となった謝花昇は学習院から農科大学へ進む。東京では中江兆民にも教えを受ける。沖縄最初の学士となった謝花は県の技師として勧業事業を担当し、次々と業績を上げる。砂糖、米穀の現品納税も現金納税に改めた。

 謝花の前に立ちはだかったのは薩摩藩出身の県知事、奈良原繁であった。近代的な土地所有の感覚が根付かない沖縄で奈良原は、土地を収奪していく。薩摩支配とは、近代以前の話ではなかったと気づいたしだいである。謝花は民権運動の指導者となる。近代化を進めながら、近代化を支配の手段とする県知事に立ち向かったのである。

 謝花より三歳年下の当山久三は後に「移民の父」と呼ばれる。教員から村の総代となった当山は、村の因習を断ち切りながら大和の支配に激しく抵抗した人物だ。当山より年下の平良新助は自由民権運動に身を投じ、当山に先立って移民の基礎を作った人物だ。沖縄の自由民権運動は移民運動へとつながっていく。

 大下英治は三人の人物を痛快に描くが、沖縄からの移民には簡単には言い表せない複雑な感情を覚えざるを得ない。二〇一二年、夏に那覇空港でフィリピンへの墓参団の人々が集まっている姿を見かけた。あの人々はどういう人々だったのか。沖縄からの移民の子孫であったのだろうか。

 興味深いテーマの本書だが、誤植が多く、校正の甘さが気になった。
(河出書房新社・1944円)

1944年生まれ。作家。著書『美空ひばり 時代を歌う』『経世会竹下学校』など。

◆もう1冊 

櫻澤(さくらざわ)誠著『沖縄現代史-米国統治、本土復帰から「オール沖縄」まで』(中公新書)

中日新聞 東京新聞
2019年8月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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