【聞きたい。】松岡亮二さん 『教育格差-階層・地域・学歴』

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教育格差

『教育格差』

著者
松岡 亮二 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/教育
ISBN
9784480072375
発売日
2019/07/04
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】松岡亮二さん 『教育格差-階層・地域・学歴』

[レビュアー] 磨井慎吾

■「生まれの差」が即「学力差」に


松岡亮二さん

 教育について語りたがる人は多い。平等な学校教育を誰もが享受する日本は、チャンスが均等で他の先進国より格差が少ないと誇る右派。対して、近年の政府の新自由主義政策により格差が拡大し「子供の貧困」が急増したと怒る左派。しかし本書によると、いずれも事実に即さない印象論という点では同じである。

 「教育格差も子供の貧困も最近始まったわけではなく、戦後ずっと放置されてきた問題。これはデータから明らかなわけで、今後は事実をベースに議論しよう、というのが趣旨です」

 戦後日本は、生まれによる教育格差が常に再生産される「緩やかな身分社会」であり続けており、かつその格差の状況は今世紀に入ってからも現在まで大きく変わっていない。米国帰りの気鋭の教育社会学者が、乏しい日本の社会調査の中から苦心して集めたデータを基に、国際的に見て特にひどいわけではないが公平性も高くない「凡庸な教育格差社会」である日本の姿を描き出していく。

 「出身階層は社会の全員に関係する大きな問題なのに、いまだどこかに『一億総中流』みたいな前提があるのか、なぜかみんな話題にしない」

 親の学歴、所得および地域による子供の教育格差はすでに就学前から始まり、その差は小中学校で縮まることはなく、そのまま高校受験によって偏差値順に「隔離」されていく。日本独特の「教育困難校」も、格差を縮小できない教育制度の産物という。こうした状況の改善に必要なのは、いわゆる「ゆとり教育」のような思い込みに基づく従来型の非科学的教育改革ではなく、まず政策効果を測定可能にするための学術的データの継続的収集を始めることだと訴える。

 「教育格差はこの社会のあり方の根幹にあるものなので、まずそこを直視する必要がある。そのためのたたき台として、一人でも多くの人に読んでほしいですね」(ちくま新書・1000円+税)

 磨井慎吾

   ◇

【プロフィル】松岡亮二

 まつおか・りょうじ ハワイ州立大マノア校教育学部博士課程教育政策学専攻修了。博士(教育学)。東北大大学院COEフェローなどを経て早大准教授。

産経新聞
2019年8月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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