『ミスを「成果」に変える : 命綱を作っている女性社長の仕事術』
- 著者
- 藤田, 尊子, 1965-
- 出版社
- 自由国民社
- ISBN
- 9784426125486
- 価格
- 1,540円(税込)
書籍情報:openBD
ミスは成果に変える。「命綱」の会社で女社長が実践する仕事のコツ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『ミスを「成果」に変える──命綱を作っている女性社長の仕事術』(藤田尊子 著、自由国民社)の著者は、「命綱」を製造している株式会社基陽の代表取締役。
いうまでもなく「命綱」(正式名称=墜落制止用器具安全帯)は、建設に携わる人々の命を預かる重要な製品。そのため、ひとつのミスも許されません。
とはいえ、人間である以上はどうしてもミスを避けられない部分はあるもの。著者を筆頭とする同社のメンバーも、これまでに多くのミスを重ねてきたといいます。
ミスを起こすと人間は、またミスを起こしたらどうしようと萎縮してしまい、仕事への積極的な姿勢が失われてしまいます。それでは人も会社も成長できず停滞してしまい、悪循環を引き起こします。
そうなったらメンバーも私も由々しき事態になりかねません。 リーダーである以上、メンバーが安心して仕事ができるように、どういう時にミスが起こりやすいかを分析し、ミスを未然に防ぐ工夫を重ねているうちに、何を一番大切にしたら、ミスが減り、成果に変わるかが見えてきたのです。
それは、とてもシンプルなことの積み重ねでした。(「まえがき」より)
そうした経験に基づき、本書においては「仕事の進め方・休み方」「意識づくり」「チームワーク」「改善」など、身近な建設マンから学んだ「ミスを防ぐための仕事のコツ」を明かしているわけです。
きょうはそのなかから、第2章「ミスの注意信号はこうしてキャッチせよ」に焦点を当ててみたいと思います。
働くうえで必要な能力とは
先にも触れたとおり、人間である以上は大なり小なりミスは起こしてしまうもの。
しかしそれでも、「仕事ができる」といわれる人は、ミスへの捉え方が違うと著者は感じているのだそうです。
ただしそれは学歴の問題ではなく、仕事ができる人は「人間力」が高いというのです。
なお、著者の会社で理想とする「人間力」の基盤となっているのは、次の5項目だとか。
1 心と体の健康の安定と維持ができる意思能力
2 愛のある人間性を発揮できる能力
3 自発的に学び、前向きに取り組み、本気で解決する能力
4 世のため、人のため、自分の力を生かそうと行動する能力
5 あるべき姿を描き、自発的に課題形成する能力
(37ページより)
この5つがすべて備わっていたら、もちろん理想的ではあります。しかし現実問題としてそれは簡単なことではないでしょう。
だからこそ著者もメンバーと一緒に、これらの人間力を身につけることを目指しているのだそうです。(35ページより)
心と身体の状態を知る
「なぜミスを起こしてしまったのか」と振り返ってみると、「もしもあのとき、気がついていたら…」というようなことを感じるかもしれません。
つまり「あのとき」に、サインは出ていたということです。
仕事とはプロフェッショナルな作業であり、それに対して報酬を受け取る以上、心身ともに万全の状態で臨むべき。
しかし実際のところ、多くのオフィスワークの場合、ひとつのミスが命を奪うような結果にはつながらないのも事実。
そのため、真面目に仕事に取り組んでいたとしても、さほど高い意識を持たないまま「オフィスに行って仕事をし、終わったら帰る」という繰り返しになってしまいがちでもあるということです。
準備不足や確認不足、見逃しなどがミスを引き起こすということはわかっているものの、毎日のこととなると、それを深く意識しないまま仕事に臨んでしまう。
そんな人も少なくないわけです。しかしそれは、油断、慢心、過信などから生まれる危険信号。
だからこそ、自分自身がいまどういう状態にあるかを把握する必要があるということです。
まず、何事も自分自身から始まります。その自分のコンディションを自分が分かっていない状態で仕事をするのは、ミスのリスクがあるということです。体調に神経質になりなさい、という意味ではありません。
まず、自分を大切にする意味で、自分の心と体の声を聞くこと。それが、ミスなく、自信を持って仕事ができる第一歩です。(39ページより)
寝ているときも、起きているときも、心と体はいろいろな声を発しているもの。
そこで自分のことを大切にいたわり、ミスから守る必要があるという考え方です。(36ページより)
通勤時間でルーティーンをつくる
自分のコンディションを確認しないまま仕事に行くのは、安全確認をしないまま飛行機を飛ばすようなものだといいます。
ミスのリスクを抱えているということを知らないままの状態で、仕事に臨むことになってしまうわけです。
そこで著者は、ミスが起きやすいときの注意信号を通勤時間にキャッチする簡単な方法を紹介しています。それは、自分だけのルーティーンをつくること。
たとえば、毎朝、駅ではエスカレーターを使わないと決めます。階段を使っていると、軽々と昇り降りできる日もあれば、体が重くエスカレーターを使いたいと思う日もあるはずです。
また、コーヒーが好きな人は、オフィスに入る前に、コーヒーを飲むと決めます。おいしいと感じる日もあれば、飲みたくない日もあるでしょう。(42~43ページより)
このように、毎日ちょっとしたルーティーンを行うことで、「体が重い」「気が進まない」「気分が沈んでいる」など、その日の自分のコンディションを知ることが可能。
「仕事に行く」という行動自体は毎日同じだったとしても、自分のコンディションは毎日ずいぶん違うということを、たったこれだけのことで実感できるわけです。
その結果、「どうもコンディションがよくない」と感じたとしたら、その日はそれを前提として仕事に向かうことができます。
ミスを起こさないよう、普段よりもさらに意識することができるということです。(42ページより)
決して難解ではない、シンプルでわかりやすいアプローチが魅力。
すぐに取り入れられることばかりなので、ピンときたことから実践していけば、ミスを少なくし、成果を高めることができるかもしれません。
photo: 印南敦史
Source: 自由国民社