第50回大宅賞が決定 河合香織『選べなかった命』と安田峰俊『八九六四』が受賞

文学賞・賞

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 第50回大宅壮一ノンフィクション賞が15日に発表され、河合香織さんの『選べなかった命』(文芸春秋)と、安田峰俊さんの『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)に決まった。

『選べなかった命』は、出生前診断の誤診を巡って、北海道に住む夫婦が医師と医院を相手に損害賠償を求める訴訟を追ったノンフィクション作品。裁判の過程で見えてきたのは、そもそも現在の母体保護法では、障害を理由にした中絶は認められていないことだった。ダウン症の子と共に生きる家族、ダウン症でありながら大学に行った女性、家族に委ねられた選別に苦しむ助産師。多くの当事者の声に耳を傾けながら選ぶことの是非を考える内容となっている。

 著者の河合さんは、1974年生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒業。2004年に出版した『セックスボランティア』で、障害者の性と愛の問題を取り上げ、話題を呼ぶ。2009年に『ウスケボーイズ─日本ワインの革命児たち─』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『帰りたくない─少女沖縄連れ去り事件─』がある。

『八九六四』は、各国を巡り、1989年6月4日に起きた天安門事件に様々なかたちで関わった60人以上の関係者に取材をしたルポルタージュ。民主化運動の亡命者や当時のリーダー、デモに参加者などの言葉から天安門事件に迫る。

 著者の安田さんは、1982年滋賀県生まれ。立命館大学人文科学研究所客員研究員。立命館大学文学部(東洋史学専攻)卒業後、広島大学大学院文学研究科修士課程修了。一般企業勤務を経た後、ルポライターとなる。アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情について執筆を行っている。著書に『和僑』『境界の民』『知中論』、編訳書に『「暗黒・中国」からの脱出』などがある。

 同賞は、ジャーナリスト・大宅壮一氏のマスコミ活動を記念し、1970年に制定された賞。一昨年に「大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞」に改称し、選考委員に加えて読者も投票する方式に変更するなどノンフィクション作品の支持拡大を図ったが、成果が上がらなかったとして、今回から元の名称と選考方法に戻した。1月~12月末までに刊行された個人の筆者(共著を含む)によるルポルタ-ジュ・内幕もの・旅行記・伝記・戦記・ドキュメンタリ-等のノンフィクション作品全般が対象。第50回の選考委員は、梯久美子、後藤正治、佐藤優、出口治明、森健の5氏が審査を務めた。受賞作品は「文藝春秋」7月号に掲載される。

 昨年は、加計学園問題の全貌を追った森功さんの『悪だくみ』が大賞を受賞。読者賞に2001年に発覚した外務省機密費流用事件の捜査の裏側に迫った清武英利さんの『石つぶて』が受賞している。過去には沢木耕太郎さんの『テロルの決算』、猪瀬直樹さんの『ミカドの肖像』、米原万里さんの『嘘つきア-ニャの真っ赤な真実』、近年では森健さん『小倉昌男 祈りと経営 ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの』などが受賞している。

 第50回の候補作品は以下のとおり。

『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』河合香織[著]文藝春秋
『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』先崎学[著]文藝春秋
『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』旗手啓介[著]講談社
『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』松本創[著]東洋経済新報社
『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』安田峰俊[著]KADOKAWA

Book Bang編集部
2019年5月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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