第72回日本推理作家協会賞が発表 葉真中顕さん『凍てつく太陽』ほか

文学賞・賞

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 第72回日本推理作家協会賞が25日に発表された。「長編および連作短編集部門」に葉真中顕さんの『凍てつく太陽』(幻冬舎)が受賞。「短編部門」に澤村伊智さんの「学校は死の匂い」(「小説 野性時代」2018年8月号)が、「評論・研究部門」に長山靖生さんの『日本SF精神史【完全版】』(河出書房新社)が選ばれた。

 長編および連作短編集部門を受賞した『凍てつく太陽』は、終戦間際の北海道・室蘭を舞台に、アイヌ出身の特高刑事・日崎八尋が、軍需工場に関わる朝鮮人将校と部下が次々と毒殺される事件を捜査する戦時ミステリー作品。今年1月に第21回大藪春彦賞を受賞している。

 コラムニストの香山二三郎さんは、本作について「日本とアイヌ、朝鮮間の民族差別問題を掘り下げ、それに根ざした冤罪沙汰でひと山作る一方、吉村昭の名作『羆嵐』を髣髴させるヒグマホラー(!?)を絡めるなどして、日崎八尋の受難劇を膨らませていく。そこから戦争批判を高めつつ、カンナカムイをめぐる殺人事件も二転三転させていくエンタメ手腕はあっぱれのひと言だ」(週刊新潮・書評)と評している。
https://www.bookbang.jp/review/article/558083

 著者の葉真中さんは、1976年東京都八王子市生まれ。2009年にはまなかあき名義の「ライバル」で第1回角川学芸児童文学賞優秀賞を受賞。2013年に『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。2015年に『絶叫』で第36回吉川英治文学新人賞候補ならびに第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)候補。2017年に『コクーン』で第38回吉川英治文学新人賞候補。主な著作に『ブラック・ドッグ』『政治的に正しい警察小説』『W県警の悲劇』などがある。

 短編部門を受賞した「学校は死の匂い」は、KADOKAWA発行の小説誌「小説 野性時代」に掲載された「比嘉姉妹シリーズ」のスピンオフ短編。著者の澤村さんは、1979年大阪府生まれ。幼少期より怪談・ホラー作品に慣れ親しみ、岡本綺堂作品を敬愛する。2015年に「ぼぎわんが、来る」(受賞時のタイトルは「ぼぎわん」)で第22回日本ホラー小説大賞〈大賞〉を受賞。巧妙な語り口と物語構成によって、選考委員から高評価を獲得した。新たなホラーブームを巻き起こす旗手として期待されている。

 評論・研究部門を受賞した『日本SF精神史【完全版】』は、幕末の日本SFの誕生から現代に至る歴史を紐解いた一冊。著者の長山さんは、1962年茨城県生まれ。歯科医の傍ら、近代日本の文化史・思想史から文芸評論や現代社会論まで、幅広く執筆。1987年に横田順彌らと古典SF研究会を創設し初代会長を務める。『偽史冒険世界』で大衆文学研究賞、『日本SF精神史』で日本SF大賞、星雲賞を受賞している。

 贈賞式は5月27日(月)に東京・新橋の第一ホテル東京で行われ、受賞者には正賞と賞金50万円が贈られる。

 日本推理作家協会賞は、1947年に探偵作家クラブ賞としてスタートし、1955年に日本探偵作家クラブ賞と名を変え、1963年に日本推理作家協会賞と改められ、現在まで続くミステリー界で最も権威ある賞とされる。

 第72回の候補作品は以下のとおり。

■長編および連作短編集部門
『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』呉勝浩[著]光文社
『凍てつく太陽』葉真中顕[著]幻冬舎
『それまでの明日』原りょう[著]早川書房
『ベルリンは晴れているか』深緑野分[著]筑摩書房
『碆霊の如き祀るもの』三津田信三[著]原書房

■短編部門
「埋め合わせ」芦沢央[著](「オール讀物」7月号掲載)
「イミテーション・ガールズ」逸木裕[著](「小説 野性時代」7月号掲載)
「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」大倉崇裕[著](「ミステリーズ!」87号掲載)
「くぎ」佐藤究[著](「読楽」5月号掲載)
「学校は死の匂い」澤村伊智[著](「小説 野性時代」8月号掲載)

■評論・研究部門
『怖い女』沖田瑞穂[著]原書房
『乱歩謎解きクロニクル』中相作[著]言視舎
『日本SF精神史【完全版】』長山靖生[著]河出書房新社
『娯楽としての炎上 ポスト・トゥルース時代のミステリ』藤田直哉[著]南雲堂
『刑事コロンボ読本』町田暁雄[著]洋泉社

Book Bang編集部
2019年4月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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