愛する猫からの「最後の贈りもの」 ペット専門葬儀場で聞いた猫の秘密

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愛するペットと永遠に


世田谷の感応寺には、自然と猫が集まってきます。生まれたばかりの仔猫を抱く作家の野中柊さん

 世田谷区の感応寺は徳川家康ゆかりの将軍地蔵尊を祀り、二代将軍徳川秀忠の命によって創建され、400年以上の歴史を有するが、2005年に新たな取り組みを始めた。前出のジャパンペットセレモニーの齊藤隆秀部長が語る。

「感応寺はもともと東京の本所にありましたが、関東大震災のとき、堂宇が消失し、ここ世田谷の上馬に移転しました。ご住職と弊社の代表が知り合いで、2005年に業務提携したときはお寺にお墓はほとんどなく、檀家さんもいなかったそうです。慣例的に、動物は人間のお墓に一緒には入れないとされてきましたが、仏教の経典を改めて調べてみると、葬儀によって人間と同じように極楽浄土に行くことができることがわかり、ご住職が猫好きで、うちの代表もそもそも人間の葬儀を行ってきて、ペットも家族の一員だから、人との間の境い目をなくしてもよいのではないかと考え、ペットの供養と慰霊サービスを始めました」

 感応寺の境内には「動物供養塔」があり、ペットの遺骨が埋葬され、骨壺を預かる納骨堂もあるが、それとは別に、境内に飼い主とペットが一緒に入れる墓地を設けたところ、檀家は急増し、墓石にペットの名前を刻み、共に暮らした猫や犬の姿や思い出をかたどるユニークな墓もあらわれた。墓地の区画はほぼすべて埋まり、あらたに飼い主とペットの遺骨を一緒に埋葬する「浄会塔(じょうえとう)」が山門の横につくられた。

「浄会塔は、飼い主の方が生前にご購入し、先に逝ったペットの遺骨を埋葬したり、あるいは飼い主が亡くなるとお骨を納め、そのあとペットが逝くとお隣に埋葬するようにしています。浄会塔の横には飼い主とペットのお名前と生年と没年の月日が刻まれ、赤い文字はご存命で、お亡くなりになると黒い文字に変えています」(齊藤さん)

一緒に生きてきた猫の「最後の贈りもの」

 ところで、愛猫の遺骨は、いまも野中柊さんの自宅にある。

「骨壺を家に置いたままにしておくと、家がお墓と化してしまうので、土に還してあげないといけないって言う人がいるでしょう? でも、わたしは、どうしても手放す気になれなくて」と野中さん。荼毘に伏したとき、ジャパンペットセレモニーのスタッフに言われた言葉が心の支えになっているという。

「『この子のお骨は、いつまでも、そばに置いておきたい』とつぶやいたら、スタッフの方が『そのお気持ち、ほんとうによくわかります。そうおっしゃる遺族の方々も多いです。慣習に囚われず、ずっとお手元に置いても、いっこうに構わないと思いますよ』と声をかけてくださって、重苦しい気持ちがすっと軽くなりました」

 そして、もうひとつ、野中さんは、忘れられない言葉と光景に出合った。

「お骨拾いのとき、スタッフの方が『猫の尻尾には、秘密があるって、ご存じですか?』と言って、尾椎の骨を見せてくれたんです。『ほら、星のかたちをしているでしょう』と。いったい、なんのことだろうと思いつつよく見たら、尾骨の断面が六芒星のようなかたちをしていたんですよ。猫好きの方なら、だれもが感じていることでしょうけれど、猫と暮らしていると、歓びや笑い、温もりや愛おしさなど、日々、さまざまな贈りものをもらっています。尻尾のお骨に星を見たとき、最後のかけがえのない贈りものをもらったように思いました」

 野中柊さん著『猫をおくる』には、星のエピソードが描かれている。この連作小説に登場する、猫と共に生き、猫に生かされてきた男女は、愛するものと死に別れ、喪失感を抱えながらも、どこか豊かで、やわらかな輝きに照らされている。


猫の看取りと、猫と生きる男女を描いた連作小説『猫をおくる』(野中柊著、新潮社刊)

新潮社
2019年10月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「新潮」「芸術新潮」「週刊新潮」「ENGINE」「nicola」「月刊コミックバンチ」などの雑誌も手掛けている。

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