いまこそ経済成長を取り戻せ ダンビサ・モヨ著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

いまこそ経済成長を取り戻せ ダンビサ・モヨ著

[レビュアー] 中村達也(経済学者)

◆民主主義を根底から刷新せよ

 二〇一三年、ケニアで激しい選挙戦を制したケニヤッタ大統領が、空港で盛大な見送りを受け、初の外遊のために飛び立った。向かった先は、西のワシントンではなく、東の北京であった。途上国にとって、急速な経済成長を成しとげた中国は、大いに魅力的な存在として映るのである。ところでその中国は、もちろん民主主義の国ではなく、権威主義的な国家資本主義の国である。

 著者の母国ザンビアでは、彼女が大学在学中にクーデター未遂事件が勃発、急遽(きゅうきょ)アメリカに渡った。ハーバード大学で修士号を、英オックスフォード大学で博士号を取得。世界銀行やゴールドマン・サックスで気鋭の経済アナリストとして辣腕(らつわん)を振るってきた。その著者にとって中国は、決して目指すべきモデルではない。あくまでも民主主義を土台にした経済成長を目指すべきだというのである。それも単なるGDP(国内総生産)の成長ではなく、将来を見すえた質の高い経済発展が目標だというのである。

 ところが、途上国も先進諸国も、あるべき長期的な戦略を欠いた短期の弥縫策(びほうさく)ばかりが目につく。それは、民主主義そのものが未熟、あるいは劣化しているからに他ならない。これが著者の見立てである。第二次大戦前にW・チャーチルが語った言葉を、著者が引用している。「何も決定しないという決定をする。優柔不断であることを解決策とする。成り行きに任せ漂流することに頑(かたく)なである。無能であることに全能であろうとする」

 本書の第七章で「新たな民主主義の構想」と題して十カ条の具体的提案が示されている。例えば、民主主義の基礎をなす選挙制度と有権者のあるべき資質、政治家と政策作成者の力量をどう練り直すべきか等々。トランプ大統領を生んだアメリカの民主主義、欧州連合離脱を選択したイギリスの民主主義、政情不安にさらされる途上国の民主主義を、根底から刷新するための試案である。安倍一強を生んだ日本の民主主義を見極める手がかりにもなりそうだ。
(若林茂樹訳、白水社・2592円)

1969年生まれ。エコノミスト。2009年にタイム誌が「世界で最も影響力のある100人」に選出。

◆もう1冊 

ダンビサ・モヨ著『援助じゃアフリカは発展しない』(東洋経済新報社)

中日新聞 東京新聞
2019年9月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク