【話題の本】『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』大木毅著

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■第二次大戦像をアップデート

 1941年から45年まで、ナチスドイツとソ連との間で繰り広げられた独ソ戦。南北数千キロにわたる広大な戦線で数百万の大軍同士が激突したこの史上最大の地上戦の死者は、独側が軍民合わせて600万~800万人(他戦線分も含む)、ソ連側に至っては2700万人におよぶとされる。

 太平洋戦線の陸戦とは桁違いの数字が並ぶため、日本人には実感がわきにくいこの戦争。独軍事史に造詣が深い現代史家の著者が、巨大かつ特異な惨劇である独ソ戦の全体像をクリアに描き出す。

 岩波書店によると、7月中旬の刊行以降、2カ月半で8刷7万部と非常に好調。同社営業部は「新研究に基づき、新しい独ソ戦像を示したのが大きいのではないか」とヒットの要因を分析する。

 ソ連崩壊後の史料公開などにより、欧米での独ソ戦研究はこの30年で大きく進展した。質でまさる独軍に対し、数が頼みのソ連軍。ヒトラーの誤った作戦介入がなければ独側は勝つことができた…。冷戦期の西側で形成され、日本ではいまだに健在のそうした古い独ソ戦イメージが、ページをめくるたびに覆されていく。第二次大戦史理解のアップデートを促す快著だ。(岩波新書・860円+税)

 磨井慎吾

産経新聞
2019年10月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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