『ジョン・マン 7 邂逅編』
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徹底した米国取材と原書の精読で描き出す“ジョン万次郎”の第7弾
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
山本一力のライフワーク『ジョン・マン』の第7巻〈邂逅編〉の登場である。
ジョン・マンの乗った捕鯨船フランクリン号は、デイヴィス船長が航海の途中で精神に異常を来たすという痛ましい出来事が起きたが、その一方で、かつてない大成果をあげて、三年四ヶ月ぶりにニューベッドフォードに帰港する。
そして、ジョン・マンにとっては約六年ぶりのハワイの地で、かつての漂流仲間の消息─重助の病死、この地で所帯を持った寅右衛門のことなどを知る。
しかし、どうしても合点がいかないのは、五右衛門と傳蔵が便船に乗って二人だけで土佐帰国を目論んだことだ。
あの日、五人で土佐へ帰ると誓ったのは嘘だったのか。ジョン・マンはその資金のために、大成果を上げるべく捕鯨船に乗り込んだのではなかったのか。
作者は記す─「込み上げるのは怒りではなかった。/言葉にならない、深い哀しみである」と。
そして読者は、二人を日本へ帰らせた意外な人物とその理由を知って、二度、驚かされるだろう。これには副長になったばかりのジョン・マンも是とせざるを得なかった。
雨のフェアヘブンを歩く箇所では、ジョン・マンの心象風景が見事に映し出され、心のさざなみまでが手に取るようにわかるほどだ。
私は第七巻で、このくだりがいちばん好きだ。
が、ジョン・マンは、いつまでも立ち停まっている男ではない。仲間たちと日本へ─。
そのために彼は、ゴールドラッシュにわくカリフォルニアへと向う。金鉱目当てのならず者が闊歩している町へ、海の男が、ライフル片手に乗り込んでいくのだ。
この大河小説『ジョン・マン』は、徹底したアメリカ取材や英文資料に基づいて作品が構成されている。おそらくこれまでジョン万次郎について書かれた小説の中で、最も丹念に彼の足取りを追ったものといえるだろう。
だが、この第七巻を読んで、おや、待てよ、という気になった。史実の骨格は変えていないだろうが、あまりにも面白すぎるのだ。
果たして、そのあたりの匙加減やいかに?
本書の結びは、ジョン・マンが操舵手に告げる「進路直進」の一言で終わるが、これではもう待てない。はやく次巻を!