ビジネスの好感度アップ。「近況報告トレーニング」で説明力を鍛える
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
上手な説明ができることには、多くのメリットがあります。しかし現実問題として、しっかりとした説明力を身につけている人はほとんどいないもの。
そう指摘しているのは、テレビでもおなじみの大学教授である『頭のよさとは「説明力」だ』(齋藤 孝 著、詩想社新書)の著者です。
社会人になると、急に、説明力が求められるようになってきます。職場では口頭でかいつまんで要領よく説明する能力が求められ、その能力が高い人は好まれます。
日常の会話においても、複雑なことを整理してわかりやすく説明できる人は、「頭がいい」と、まわりから評価されますが、その逆に、いい大人になっても要領を得ない話、意図がなかなか伝わらないような話をしていると、「話の長い人」というネガティブな評価を下されてしまいます。
こういった現状にあって、自身の説明力をアップさせたいと考える人も多いと思います。しかし、その方法論を多くの人は知らないのです。(「まえがき」より)
そこで本書は説明力を身につけていない人に向け、どうしたらその能力を向上させることができるのかを説いているわけです。
説明力をアップさせる日常的なトレーニング方法を紹介している第3章「日常生活で『説明力』をアップさせる方法」のなかから、すぐに役立てることができそうな2つのトピックスをご紹介したいと思います。
説明力を鍛える「近況報告トレーニング」
近況報告を手短に、的確に言うように日常的に心がけていると、説明力はアップするそう。
著者も実際に大学の講義で、学生さんたちにそれを実践してもらっているのだといいます。
講義の初めにいつも出席を取りますが、私が学生の名前を呼んで、相手が「はい」と答えるだけでは、そこに新しい情報や面白味もなく、ある意味、時間の無駄のように思えます。
そこで、出席で名前を呼ばれたら、「いま、はまっているもの」や、「最近、驚いたこと」、「身のまわりで起きたちょっと面白いこと」など、五秒、一〇秒で簡単に近況報告をしてもらうように決めました。(127ページより)
なにを話そうと自由で、言いたくないことは言わなくてもいいし、自分の話したいことを話してくださいという決まり。
場合によっては、「きのう、髪を切りました」の2秒でもOK。
これを毎週やっていたら、日に日に学生たちの近況報告がおもしろくなっていったのだとか。
「先週、ふられました」「弟が笑ってしまうようなこんな失敗をしました」など、みんな生き生きと自分らしいエピソードで近況を数秒で語れるようになったというのです。
なにかを説明しなければならないとき、もたもたしてしまうということはあるものです。
しかし、近況を15秒ほどで話す練習をしていると、パッと話をふられたときに言いよどむことがなくなり、的確なエピソードを即座に提示できるようになるということ。
当然、説明においても重要な能力ということになるでしょう。(127ページより)
説明話術が身につく「15秒練習」
著者は、説明にかかる時間は最長で1分間だと考えているそうです。最短ではなく、最長で1分だということ。1分間あれば、たいていのことは説明することが可能。
1分を目安に説明を組み立てることにより、手短でポイントをとらえた上手な説明が可能になるというのです。
以前私は、朝の時間帯、月曜から金曜まで生放送の『あさチャン!』(TBS)という二時間半ほどの情報番組のMCをやったことがありました。
MCの役割としては、CMに入る前の三秒や一〇秒という単位で、「○○について説明してください」と指示されれば、それにうまく答えなくてはなりません。この経験は、私の説明力を随分鍛えたと思います。
「あと十五秒でこれについて、もうワンポイントお願いします」と指示されると、十五秒もあると、かなり説明できるな、という感覚になりました。(137ページより)
発言時間を厳格に意識する訓練をすることによって、上手な説明ができるようになってくるというのです。
簡潔に説明するために必要なのは、無駄なことばをなくして話すクセをつけること。
そのために、ひとつのネタを15秒で話す「15秒とレーニング」を行うわけです。5秒では短すぎて難しいこともあるでしょうが、15秒あればひとつのポイントを十分に説明できるのだといいます。
そんな実感があるからこそ、著者は大学の学生たちに1年生の4月から、15秒でなんでも説明する練習を徹底的にやってもらっているのだそうです。
「宗教革命を15秒で説明してください」「ニュートンの発見を15秒で説明してください」などのお題を出したり、日本史の事件であればなんでもよかったり、自分の知っている知識ならなんでもいいなど、4人1組になって、15秒ずつ順番に説明をして、ぐるぐる何度も繰り返すというのです。
このような練習を繰り返していると15秒の感覚に慣れてくるため、どんなことでも容易に15秒で説明できるようになっていくというのです。
十五秒というと、短いようでいて、それなりの時間があります。早く終わってしまうのも情報が少なすぎるのでだめです。「えっと…」などと言って、時間を消費することも意味がありません。
私は「意味の含有率が高い話し方」と呼んでいるのですが、十五秒単位のなかにどれだけの意味が詰め込まれているかということが大事なのです。
「十五秒なのにこんなに詰まっている」という、砂金がたくさん入った砂のような話し方を目指して練習しようと学生たちには言っています。(138~139ページより)
1分間で上手な説明をするための近道は、まずこのように15秒で話す練習をしていくこと。
15秒で簡潔に説明できる能力を身につけることができたなら、そのパートを4つ組み合わせれば1分間の説明になるわけです。
たとえば1ポイント15秒で、3ポイントを説明すると合計5秒。そこにまとめの内容を15秒加え、1分間の説明として構成するということ。
このように、上手な説明は1分間で完結するというのが著者の考え方。
そして、そのための話し方は「15秒トレーニング」をすることで格段に上達するというのです。(136ページより)
具体的なヒントやトレーニングメニューを網羅した本書を、「説明力トレーニング教室」だと考えて読んでほしいと著者は記しています。
また、トレーニングをすればするほど上手になっていくのだとも。
つまり、充実感や達成感を確実にものにできるということ。そういう意味でも、読む価値は十分にありそうです。
Photo: 印南敦史
Source: 詩想社新書