【話題の本】『観光公害 インバウンド4000万人時代の副作用』佐滝剛弘著

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 ■裏付け、思いやりある提言

 京都在住1年の著者は、季節ごとに異なる表情を見せる古都での生活を楽しみながらも、旅行者が写真撮影のため舞妓(まいこ)を追いかけ回したり、市バスが混みすぎて市民生活に支障を来したりという、いわゆるオーバーツーリズムに直面。著名寺院は人であふれ静寂の中でこそ味わえる良さが失われてしまったことを嘆く。

 京都だけでなく、外国人スキー客が押し寄せる北海道の倶知安町では、ホテル需要などによって地価が高騰するなど、各地で摩擦が起きていることを紹介している。

 オーバーツーリズムは世界的な問題。著者は、スペインのバルセロナなど代表的な都市を実際に訪れ混乱ぶりを報告している。英国のストーンヘンジでは、保全のため駐車場を遺跡から離れた場所に移し、あえてアクセスを悪くしたことを紹介。編集者の岡部康彦さんは「メディアでは興味本位で扱われることが多い問題ですが、海外を含め実際に現地に足を運んでいるので、きちんとした裏付けがあります」と話す。

 「まだ見ぬ地への憧れ」を人間の本能とする立場からの解決へ向けた提言は、思いやりとバランス感覚があって、ストンと腑(ふ)に落ちた。(祥伝社新書・840円+税)

 櫛田寿宏

産経新聞
2019年10月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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