次々と襲う台風にどう対処すべきか? 生死の明暗を分けた3つの理由

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 各地に大きな爪痕を残した超大型台風19号。2019年10月25日現在で、86人が死亡、8人行方不明、71河川で決壊したというが、まだ被害の全容はつかめていない。
 特に福島や神奈川、宮城、茨城、長野などの被害状況は深刻で、復旧への道のりはまだ始まったばかりだ。

 都内でも多摩川流域で氾濫が起き、床下浸水などの被害が相次いだ。多摩川については、一部、堤防が未整備な箇所があり、これが原因となったようだ。
 しかし、ある予測によると、もっと大きな被害が発生していた可能性があったという。

想像を超える最悪のシナリオとは

 都内を流れるもう一つの一級河川、荒川の被害状況は比較的小さかったといえる。
 荒川の上流河川である都幾川、九十九川、越辺川で堤防が決壊して、埼玉県東松山市・川越市周辺では甚大な被害が出た一方で、荒川上流のダムと荒川調整池が機能し、都市部の大きな洪水を防いだという。

 ところが国土交通省が2017年に発表した「荒川氾濫」という被害予測シナリオによると、秩父周辺など荒川上流域の降水量が3日間で500ミリを超えると、北区付近の荒川堤防が決壊の恐れがあり、銀座や浅草まで長期間浸水するという被害推定が出されていた。
 この場合の被害予測は、死者数4100人、浸水戸数51万戸、孤立者数390万人、被害総額は33兆円という桁外れに大きなものだ。


銀座周辺の浸水被害イメージ(映像提供:国土交通省 荒川下流河川事務所/NHK)

 実は今回、秩父では12日の降水量が635ミリと観測史上最大を記録し、この想定を超える事態となったのだが、幸いにして荒川の堤防は持ちこたえることができた。おそらく荒川の上流部が先に決壊したことで、下流部の堤防にかかる水圧が低下したことや、増水期間が短かったことで、堤防が持ちこたえたのではないだろうか。

市民としてとりうる安全行動とは?

 昨年の西日本豪雨災害について現地を取材した『ドキュメント豪雨災害 西日本豪雨の被災地を訪ねて』(谷山宏典 著/山と溪谷社 刊)によると、2018年7月に発生し、200人以上の被害者を出した西日本豪雨では、生死の明暗を分けた理由として3つが挙げられるという。

●ハザードマップを基に避難先と避難経路の事前確認
●地域ごとの声の掛け合いや安全確認
●避難勧告が出る前の早めの行動

 特に3番目の「早めの行動」には、理由がある。
 警戒レベル4になると出される避難勧告から行動を始めたとしても、最悪の警戒レベル5になるまで時間が短く、避難行動を取りたくてもすでに危険なほどの豪雨や浸水、土砂災害などの事態を迎えているケースもありうる。そのため、河川の流量(堤防までの水位)やアメダスなどの降水量、さらにはハザードマップを見ながら、自宅や会社・学校などが避難区域に指定されているかを事前に確認しておく必要がある。

 そのことによって、「こういう状況になったら、ここに避難しよう」という判断基準ができる。
 テレビやラジオ、防災無線からの避難勧告が出るより、少し早い行動の決断が可能になるのだ。

実際の避難行動はどうすればいいか

 谷山さんは、多摩川の水位上昇によって自治体から避難勧告が発令される前に、川近くの浸水想定区域に住む知人家族に声をかけて、自宅に避難してもらったという。これは避難情報が出る前に、氾濫危険水位を上回ることが各種の気象・水位データから予測できたためだという。


Yahoo!天気・災害では水位の経過がリアルタイムで確認できる(提供 Yahoo!天気・災害)

 幸い、知人宅付近では堤防の越水・浸水被害には至らなかったが、事態は緊迫していた。
「ずっと水位監視カメラを見ていて、堤防の際まで水は来ていたので、雨がもうちょっと強かったり、長引けば、ヤバかったなと感じています」と谷山さんはいう。

 このような情報を読み解くリテラシーも、被害を予見し、迅速な行動を取ることにつながるため、今後ますます必要となるだろう。谷山さんも「今回、ある意味、自分の本の内容を自分自身で実践した形になりました」という。

 実際問題、避難所では安全が確保されているとはいえ、地域住民全員分のスペースや水・食料が確保されているとは言い難い。プライバシーをどう守るか、薬や手当が必要な方へのケアが充分に取れない状況であることは今後の課題としても、自分と家族、隣近所や知り合いの安全確保のために、日頃の対策を万全に整えておきたい。

山と溪谷社
2019年10月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

山と溪谷社

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1930年創業。月刊誌『山と溪谷』を中心に、国内外で山岳・自然科学・アウトドア等の分野で出版活動を展開。さらに、自然、環境、ライフスタイル、健康の分野で多くの出版物を展開しています。