タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ 小林宙(そら)著

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タネの未来

『タネの未来』

著者
小林宙 [著]
出版社
家の光協会
ISBN
9784259547714
発売日
2019/09/17
価格
1,760円(税込)

タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ 小林宙(そら)著

[レビュアー] 玉真之介(徳島大教授)

◆伝統野菜の多様性を残す

 なぜ十五歳の少年がタネの会社を創ったのか? そのタネ明かし本である。

 著者は高校二年生。中学三年の時に、「鶴頸(かくけい)種苗流通プロモーション」という会社を立ち上げた。全国各地を訪ね歩き、集めた伝統野菜のタネをネットで交換・販売する。なぜ、中学生が? 野菜のタネを? 四つ扉が開いて、この問いが解き明かされる。

 第一は、いま世界で起きているタネ独占の話である。遺伝子組み換え作物をはじめ、タネ開発に巨額の投資を行った企業はそのタネの「自家採種」禁止を求め、種苗法が改正された。タネの「公益性」を体現していた種子法も廃止された。こうした動きをもっと多くの人に知ってほしい。

 第二は、伝統野菜のタネが急速に消えている現実である。採種する農家もタネ屋さんも高齢化し、廃業している。生物種の絶滅と同様に、各地の特色ある伝統野菜も絶滅している。全国の種苗商店を訪ねるたびに著者は感じた。これは何とかしなければ。

 第三は、実際の会社の立ち上げと事業の苦労話である。ここで「鶴頸」という名前が著者の畑がある群馬県伊勢崎市に因(ちな)むことや、両親と二人の妹の理解と手助けが支えとなっていることが明かされる。事業が目ざすのは、タネの開発ではなく「今あるタネを残していくこと」である。

 第四は、著者の生い立ちとタネとの出会いである。小学生の時に発見したアサガオやドングリの不思議。さらに自身の食物アレルギー体質。さまざまな本や人との出会い。そこから得られた確信。遺伝的多様性を残すことが「僕たちの未来にとって必要だ」。

 本書を開くと著者の写真と次の一文が。「タネを手放すことは未来を手放すこと」。これこそ、著者が直感的に得た啓示であり、現在も著者を突き動かしている信念だ。

 生物や農業の本質と言える地域性と多様性。その危機に対して、行動を起こした少年とそれを支える家族の物語は、爽やかな読後感を伴って読者にも野菜を育てたくさせるだろう。最後にある家族からの言葉にも心が和む。
(家の光協会 ・ 1760円)

2002年生まれ。現在、東京都内の国立大附属高校二年生。

◆もう1冊 

三橋貴明著『日本を破壊する種子法廃止とグローバリズム』(彩図社)

中日新聞 東京新聞
2019年11月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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