「税のタブー」に切り込んでいく、批判精神に富む、気持ちの良い啓蒙の書

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税のタブー

『税のタブー』

著者
三木, 義一, 1950-
出版社
集英社
ISBN
9784797680416
価格
946円(税込)

書籍情報:openBD

斯界の大家がわかりやすく説く“この税はおかしい!”

[レビュアー] 石江一郎(ライター)

 税に対する自らの無知を痛感した。

 たとえば固定資産税。土地の値段には実際の取引額が目安の「実勢価額」や国交省発表の「公示価額」があるが、実勢価額に比べ、国税庁が定める「相続税評価額」は2、3割安く、自治体が決める「固定資産税評価額」は3、4割安い。なぜか。

 売買当事者の合意で決まる実勢価額とは違って、相続税評価額は毎年亡くなる130万人の被相続人らが関係し、固定資産税評価額は全国1億8000万筆もの“所有者”が関係する。関係者が多いほど、評価額は低くしたほうが無難というわけだ。

 ほぉ、徴税当局は、為政者は、なんとまぁ賢いのだろうか。

 その固定資産税評価額はあまりに算定方法が複雑で、近年、各自治体が誤って高い値段を弾き出すケースが頻発し、ニュースにもなっているそうだ。過大徴収されかねない納税者の疑念の目は自然、自治体へと向くわけだが、ここにも唸る話がある。国税は「申告納税」なので納税者が正確に額を算出せねばならず、ミスがあれば市民の責任。だが、固定資産税は地方税で「賦課課税」だから、自治体が正しく計算しなければならない。自治体の手落ちが報じられても、国税庁、税務署が批判の対象にならないのは、よく見ればそもそもの構図に理由があるのだ。

 本書は宗教法人に課税すべきか否か、暴力団から税金をとるのにどんな理屈が駆使されているのか、あるいは印紙税がいかにバカげたものであるか、さらに源泉徴収の是非など、タイトル通り「税のタブー」にどんどんズバズバ切り込んでいく。著者は税のご意見番としても知られるが、語り口調は「えっ? 一〇〇〇万円?」「あれ~~おかしいですね」とカジュアルでじつに読みやすい。

 あとがきで著者は“わかりやすく明確”であることを心がけ、反証不能な主張は避けたとも語っている。その矜持が反映された、批判精神に富む、気持ちのいい啓蒙の書である。

新潮社 週刊新潮
2019年11月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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