『科学技術の内と外』
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<東北の本棚>地域社会との協働模索
[レビュアー] 河北新報
優れた科学者ほど、恐れずに「分からない」と言うそうだ。科学技術の限界を体験し、万能ではないと知っているから。工学者で東北大名誉教授の著者は、科学の本質をこう説明する。
科学技術のあるべき姿を探究した一冊だ。現代文明のもろさを私たちに突き付けた、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が執筆の動機となった。エネルギー・環境学が専門の著者は「科学技術の暴走に工学も加担し、災禍を招いた」と考え、社会との関係性に着目する。
表題の「内と外」は二つの視点を示す。研究者ら科学技術を作り出す「内側の人」と科学技術を利用する社会全般の「外側の人」。高度に専門化し、細分化した現代の科学技術は社会との関わりが見えづらい。著者は内と外の認識の隔たりが、過剰な期待や不信を招いたと見る。
例えば、科学への誤解。原発事故後、放射能汚染を心配する人々に向けられた言葉が分かりやすい。「科学的だ」は「正しいことだ」、「科学的データがない」は「その事実がない」と捉えがちだが、いずれも間違い。科学的な手法が妥当とは限らず、データの有無と事実の有無は同義ではない。
「市民参加型の科学」が、社会との新しい関わり方として示される。科学の枠組みを超え、NPOや地域、生活者と研究者が協働する取り組み。著者自身が実践者だ。再生可能エネルギーの地産地消「EIMY」(Energy In My Yard=エイミー)の概念を2002年に提唱し、地域と向き合う科学の在り方を模索してきた。経験知に満ちた提言は、次世代への温かなメッセージにもなっている。
「内側の人々」の研究環境や課題を解説した章も興味深い。政府が経済効率を重視し、研究の業績評価や資金配分に大きな影響を与えている現状を指摘する。本書を通し、日本の研究力低迷が叫ばれる要因も見えてきた。
東北大出版会022(214)2777=3080円。