「新宿鮫」8年ぶり新作にして最長作! 硬派刑事ぶりが際立つハードボイルドな捜査劇

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暗約領域 新宿鮫Ⅺ

『暗約領域 新宿鮫Ⅺ』

著者
大沢在昌 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913175
発売日
2019/11/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「新宿鮫」の硬派刑事ぶりが際立つハードボイルドな捜査劇

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 日本の警察小説を代表するシリーズの八年ぶりの新作にして最長作。前作『絆回廊 新宿鮫X』で恋人の晶と別れ、信頼する上司・桃井をも失う羽目になった鮫島。その後どうしているのか気になっていたファンは少なくなかろう。今は新宿署生活安全課の課長代理、というと昇進が許されたようだけど、あくまで仮の地位。階級は警部のままだし、捜査に没頭しているのも昔のままだ。

 鮫島は麻薬密売人からの密告を受け、取引現場である北新宿のヤミ民泊の一室を張り込む。阿坂という女警視が新たな課長に就いた矢先、鮫島とともに張り込んでいた鑑識課の藪が、上階の部屋で人が倒れているのを発見。身元不明の男の銃殺死体だった。プロの殺し屋によるものと思われたが、手がかりはなし。

 鮫島はヤミ民泊の持ち主を調べ、権現という指定広域暴力団田島組系の元組員が黒幕であるのを突き止める。彼の話から被害者が華恵新という中国人らしいことは判明するが、来日した目的は不明。鮫島は新たに配属された矢崎巡査部長と組むことになるが、程なく捜査は公安部の預かりとなる。さらに権現が行方不明になり、拉致された可能性も。鮫島は権現の後ろ盾だった田島組の幹部・浜川から事情を聞くが……。

 やがて華が何らかのブツに関わっていたらしいことがわかってくるが、それが何か、なかなかつかめない。今回はそのブツをめぐる、いわばお宝探しが読みどころで、話の規模も捜査小説から諜報小説、謀略小説へと拡大、それとともに中盤からは前作に登場した国際的犯罪者も話に加わってくる。日本のアクチュアルな犯罪事情を背景に展開する捜査劇はハードボイルドにしてスリリングだ。

 心強い味方を失った新宿鮫だが、忖度や狎れ合いとは無縁の硬派刑事ぶりが前面に押し出され、まさに原点回帰した再生譚が堪能出来る。シリーズ未読の方も、本作からひもとかれるといいだろう。

新潮社 週刊新潮
2019年12月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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