不幸の連鎖を論理で書く作家・歌野晶午の最新版不幸小説

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間宵の母

『間宵の母』

著者
歌野晶午 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575242256
発売日
2019/11/21
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

尻上がりに増していく不思議度 冷徹で怖くて不気味な“不幸小説”

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 不幸の連鎖を論理で書く作家。

 それが歌野晶午である。どんな不幸な出来事も因果を明らかにして書く。その冷徹さがあるために、怖さ、不気味さが読者に伝わるのだ。新作長篇『間宵の母』は、その歌野の最新版不幸小説である。

 中心にいるのは間宵紗江子という女性だ。第一章「間宵の父」は紗江子の小学生時代の話である。彼女の母・己代子は未婚で紗江子を産み、はるかに年下の男・夢之丞と子連れで結婚した。美貌の義父は小学校でも人気で、特に彼のしてくれる「おはなし」は、聞いている者が物語の世界に入ったかのような臨場感があると評判だった。しかし夢之丞は、紗江子の親友である西崎詩穂の母と駆け落ちしてしまう。そのことによって両家は崩壊するのである。

 続く「間宵の母」では、大学生となった紗江子を尾行する同級生の男が、鬼女のようになった己代子の姿を目撃する。不法侵入までして間宵家の秘密を暴こうとした男には、残酷な幕切れが準備されていた。

 各章で間宵家に関心を持つ者が視点人物を務める。間宵の母娘と関わりを持つことで彼らは、超常現象としか思えない体験をすることになるのだ。不思議な出来事はあまりにも突然起きるので、多くの読者は狼狽することになると思う。これは何かの間違いではないか。何が起きているか答えが知りたい。そうした気持ちがページをめくらせる原動力になるのである。尻上がりに不思議度は増していく。最終章「間宵の宿り」でつきつけられるものの異常さには思わず言葉を失うほどである。しかし、それらの怪現象も、きちんと論理的に着地する。

 歌野には冷静な観察者の顔がある。どんな悲劇も当事者以外の目には喜劇と映るかもしれない。世の中の出来事はすべて同じで、角度を変えて観察することに意味があるのだ。歌野の小説とは彼の目から見た世界で、その歪みが読者を魅了する。

新潮社 週刊新潮
2020年1月16日迎春増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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