日本人にだけ宿命づけられている「逆さ地図」的発想――2020年以降を読み解く視座

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

 日本製の世界地図は、言うまでもなく日本列島が中心になっています。ここで視点を変えて、逆さ向きで地図を眺めてみると、どうなるでしょうか?

 すると、中国大陸を取り囲むように日本列島が連なり、まるで中国が太平洋に進出するのを妨げているかのように見えます。また、日本列島の向きを30度ほど回転するだけでも、アメリカ大陸が意外と近いことがわかります。

 このように地図をさまざまな角度から見ていく柔軟な発想をすれば、日本はまぎれもない海洋国であることが地図から感じ取れるわけです。

 ここでは『逆さ地図で解き明かす新世界情勢』(ウェッジ刊)より、国際関係アナリストである著者の松本利秋氏が、2020年を迎えたいま、日本人に欠かせない地政学的視座について語ります。

米中衝突時代に必要な地政学的視座

 冷戦終結後、グローバリゼーションの大波が世界を覆い、心理的にも、政治的にも「国境」という概念が薄れつつある中、そのリアクションとして「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ政権が登場しました。

 欧州ではグローバリゼーションを具現化したEU内で、国境を無視して押し寄せてくる難民問題を解決できず、ついにイギリスが離脱を表明。

 自国の「国益」を第一に考える政治が多数の支持を得るようになりました。

 これまで当たり前のように思われていた国家間の妥協と協調を善とする考え方が、リアリティを持たない時代に入ったと言えます。その象徴的な事象の一つが、中国の台頭と相対的な意味でのアメリカの衰退でしょう。

 世界第二位の経済大国となった中国は、伝統的なランドパワーの発想「生活圏の拡大」を目指して、海洋進出を試みています。アメリカはそれを阻止する手立てを持てなくなっているわけです。

 中国が海洋進出を考え、地図を逆さにして見た時、中国を取り囲む城壁のように日本列島の弧が存在していることに気づかされます。中国には、伝統的なシーパワー国家の発想が薄く、海を公共財として互いが利用しあうものだという発想に乏しい現実があります。海でも他国を排除して生活圏の拡大を図ろうとしているのです。

 この発想で海の支配を試みたのが、スプラトリー(南沙)諸島を自国の領海だとし、他国を寄せ付けないための軍事施設を建設した件です。同時に尖閣に対する執拗な領海侵犯行為でもあります。

「逆さ地図」が教えてくれる韓国の立ち位置

 近年、地政学的見地で言えば、激しい地殻変動が起きてきています。その象徴的な事象が集中して起きているのが、朝鮮半島情勢の激変でしょう。2018年から韓国は、慰安婦問題に関する日韓間の合意を破棄。続いていわゆる徴用工裁判問題では、1965年の日韓関係の基本となる条約を覆し、同年末には海上自衛隊の哨戒機に火器管制レーダーを照射するなど、日本を敵対国と見なすかのような行動をとってきました。

 さらに2019年夏には、日韓間のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄を通告し、日・米・韓の安全保障政策の根幹を揺るがすような措置をとりました(同年11月に延長を通告)。この事態はトランプ米大統領が口にしているように、「在韓米軍撤退」に繋がりかねない重大な状況変化なのです。

 韓国は、北は北緯38度線で塞がれており、海に出ようとすれば日本の存在があります。狭い国土と5000万人の人口では、これ以上の国内市場を主とした経済発展が見込めません。とすれば北朝鮮との間の国境を開き、南北が一つとなってランドパワーとして生きていくことが、将来の国益に繋がると考えたとすれば、これら一連の韓国の離日・離米政策は一応の説明がつきます。

 逆に、ランドパワーの北朝鮮は、アメリカと直接対話ができるようになったことで、将来的には海へのアクセスを強めようとしているのです。令和に入ってから想定できる地政学的地殻変動は、北緯38度線をピボット(軸)として、南北朝鮮が逆転するような大激震が起こる予兆と見ることもできます。

令和日本人に不可欠な「逆さ地図」的発想

 われわれ人間は、新しい時代の兆候を見たり、これまでの政治や社会の通念が揺らぎだすのを感じた時、あらためて歴史や地理の現実を振り返って、それから情勢に対応するために何がしかのヒントを見いだそうとしてきました。

 激変する状況下で、世界の現実を大きく整理してみる考え方が地政学なのです。変化の時代に外交・安全保障の戦略を立てる上での大前提の考察とも言えます。それは固定した観念でもなければ、宿命論の一種でもない。現実に即応できる柔軟な思考方法でもあるのです。

 南北朝鮮が位置を変えることは物理的には無理であっても、地政学的見地に立てば、現在、目の前で起きている朝鮮半島の現状は、外交政策上の方向性として南北が正反対になったかのような大地殻変動が起こっています。そこで提唱したいのが、「逆さ地図」を基本とした地政学的見地に立つ柔軟な発想なのです。

 これまでの北を上にして右側が東、左側が西、下側が南という常識的で固定観念にとらわれた地図の見方を逆転してみるのです。こうして見れば、例えば、南北朝鮮の逆転現象の根本的な原因は、朝鮮半島全体を取り囲んでいる日本とそのバックにあるアメリカという二つの巨大シーパワーの存在にあるということも見えてきます。

 日本にとって最悪のシナリオは南北朝鮮が統一し、核兵器を持った人口7000万人の反日国家の誕生です。こうなれば、日本の安全保障を根本から見直さなければならなくなるのは言うまでもありません。このように、世界が新しいステージに踏み込もうとしている今こそ、「逆さ地図」で見る世界観が日本人には必要となるのです。

 この地図を描く基本的発想は「地政学」にあります。歴史を垣間見ると、われわれ人間はおしなべて新しい時代の兆候を見、そしてこれまでの政治や社会の通念が揺らぎだすのを感じた時、あらためて歴史や地理の現実を振り返ってみて、それから情勢に対応するための何がしかのヒントを見いだそうとする天性を備えています。それが令和の日本人に求められる視座であるといえるのではないでしょうか。

――松本氏は、紛争地帯や北方領土など日本人がなかなか足を踏み入れられない場所への取材経験が豊富なジャーナリストでもあります。2020年の日本を取り巻く新しい情勢を読み解くうえでも、「逆さ地図」的発想は有用と言えるでしょう。近刊では12のシナリオが描かれていますので、令和の日本がとるべき道を考えてみるのはいかがでしょうか。

松本利秋

ウェッジ
2020年1月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

ウェッジ

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

株式会社ウェッジのご案内

東海道山陽新幹線のグリーン車搭載誌「Wedge」「ひととき」や、ウェブマガジン「Wedge Infinity」でおなじみ、株式会社ウェッジの、書籍部門です。新刊・既刊の情報から、著者インタビュー・対談など、読者のみなさまに役立つ情報を、随時ご案内します。