スキャンダラスなイメージの中に隠れた、とことん一途でピュアすぎる映画人としての「天使」の貌

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ショーケン

『ショーケン』

著者
萩原健一 [著]
出版社
立東舎
ISBN
9784845634439
発売日
2019/12/19
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

スキャンダラスなイメージの中に隠れた、とことん一途でピュアすぎる映画人としての「天使」の貌

[レビュアー] 森直人(映画評論家)

 ショーケンこと萩原健一。平成から令和に切り替わる直前、昨年(2019年)3月26日に68歳で逝去した稀代の名優。ただし数々のトラブルに伴う俳優としての空白期間の長さゆえか、彼のいわゆる全盛期を知らない若い世代などには、破天荒でスキャンダラスなイメージばかりが先行しているのかもしれない。

 だが例えば2008年に刊行された自伝『ショーケン』(講談社)を丹念に読んでいけば、ドがつく程の真面目さが役や作品への耽溺や熱中を徹底させ、しばしば狂気の淵に追い込まれていったことがよくわかる。それだけに今回の訃報は、テレビドラマ『鴨川食堂』(NHK BSプレミアム/16)『不惑のスクラム』(NHK総合/18)、没後に出演回が放送されたNKH大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)など、再び役者としての存在感を放ちはじめていた矢先のことだっただけに、彼の真価を知っているファンは一様に悔しさを抑えきれなかったはずだ。

 そんな「役者バカ」としての貌を鮮明に(かつ、感動的に)浮かび上がらせるのが、この貴重なインタビュー集『ショーケン 別れのあとに天使の言葉を』(立東舎)である。メインとなるのは『STUDIO VOICE』2000年8月号の「萩原健一 ショーケンと呼ばれた男」と題された大特集からの抜粋。さらに1970年代~1980年代の『キネマ旬報』の記事を再録したものだ。

 いま「役者バカ」と記したが、むしろ「映画バカ」と呼ぶのがふさわしいだろう。グループサウンズのザ・テンプターズ時代、アイドルとしての自分に飽き足らなかったショーケンは、あくまで表現者、ひとりのクリエイターとして映画作りに全力で臨んでいた。
 初の本格的な演技開眼となった斎藤耕一監督の『約束』(72)では「僕も監督になるために勉強しよう」と当初助監督として参加した(主演に決まってからも現場では「レフとかバッテリーとか運んだ」らしい)。キネマ旬報最優秀主演男優賞に輝いた『青春の蹉跌』(74)では、『恋人たちは濡れた』(73)と『四畳半襖の裏張り』(73)を観て感激した萩原本人が監督に神代辰巳を推薦した。過酷を極めた黒澤明監督の『影武者』(80)の撮影現場では「世界のクロサワ」の凄みに圧倒され、芝居に対する姿勢を大きく変えられた。自身のプロダクション「アルマンス企画」による『竜馬を斬った男』(87)では製作側の苦労も経験することになる。

「シネフィル俳優」の肖像を立体的に見せる『傷天』秘話

 次々と珠玉の赤裸々な裏話や秘話が飛び出す中、とりわけ驚かされるのが、萩原が本当に映画をよく観ていることだ。同時代の日本映画からヌーヴェル・ヴァーグやアメリカン・ニューシネマ、フェリーニやパゾリーニなど、数多くの監督や作品を引き合いに出し、しかもニュートラルな視座で分析的に語る。
 そんな「シネフィル俳優」としての彼の肖像を立体的に補完していくのが、第2章「傷だらけのショーケン=木暮修を語る」だ。これは深作欣二、工藤栄一(以上、監督)、岸田今日子(俳優)、大野克夫、井上堯之(以上、音楽)という盟友たちから見た「ショーケン論」であり、またあの名作テレビドラマ『傷だらけの天使』(日本テレビ系/74~75)が、萩原がひとつの求心力となって、映画人たちの自由な魂に支えられていたことをよく示している。

 インタビューの合間には豊富なスチール写真が挟まれており、とことん一途で、あまりにもピュアすぎる映画人としてのショーケンの姿に涙が出てくる。思えば2019年は、俳優の不祥事問題が相次いだ。しかし世間的なモラルでは測れない役者の宿業の中に、彼らの「天使」が隠れている(かもしれない)ことを、本書はそっと示唆してくれるのだ。 

立東舎
2020年1月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

立東舎

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