【児童書】『しあわせを運ぶねこ』吉田總一郎文・絵 「生き抜く力」伝える
[レビュアー] 戸谷真美
白猫のフラッフィーはもうすぐ1歳。北海道・函館で暮らしていたが、親友の黒猫、ブラッキーは東京にもらわれていってしまい、札幌で仕事を探すという飼い主にも捨てられてしまう。独りぼっちのフラッフィーは、ブラッキーの手紙を頼りに東京を目指す。
小さな子猫が勇気を出して、何とか一歩を踏み出す。すると、親切な人が手を差し伸べてくれる。ほっとしたのもつかの間、次のトラブルが襲う。
懸命に困難を乗り越える子猫の姿を通じて、「子供たちに『生き抜く力』を伝えたい」という。温かなタッチのイラストには力があり、特にフラッフィーは表情豊かで、思わず応援したくなる。
著者は、1998年の長野冬季五輪招致に尽力し、長野市と東京を拠点に活躍する実業家。物語の背景には、地方経済の衰退と東京への一極集中、人口減少といった現実の問題がちりばめられている。巻末には、こうした社会や経済の状況を親子で話し合えるよう、総ルビの解説も付けられている。(世界文化社・1500円+税)
戸谷真美