伝奇時代小説とロボットSFが融合した傑作ミステリ連作集

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伝奇時代小説とロボットSFが“江戸”を舞台に鮮やかに融合 ミステリファンも満足の連作集

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 1月末に新潮文庫から出る第3部『機巧のイヴ 帝都浪漫篇』で、乾緑郎の傑作《機巧のイヴ》シリーズがついに一段落する。

 題名のイヴとは、人間と区別できないほど精巧につくられた女性型のアンドロイド「伊武」のこと。第1部にあたる『機巧のイヴ』は、もうひとつの江戸(天府と呼ばれる)を舞台に、伝奇時代小説とロボットSFを鮮やかに融合させ、本格ミステリ的なトリックまで仕掛ける連作集。SF読者からもミステリ読者からも熱い支持を集め、昨年出た英訳版は“「ブレードランナー」ファンのためのジャパニーズ・スチームパンク・ノベル”と絶賛された。表題作は昨年、中国のSF雑誌に翻訳されるなど、海外でも評価が高い。

 伊武は機械なので年をとらず、第2部『機巧のイヴ 新世界覚醒篇』では、前作のおよそ100年後、1892年のゴダム(モデルはシカゴ)に話が飛び、万国博会場を舞台に一大冒険活劇をくりひろげる。

 第3部の始まりは1918年。ゴダムから天府に戻った伊武は、『はいからさんが通る』の花村紅緒さながら、自転車で颯爽と女学校に通う―と、まさかの学園ものに転調するが、やがて戦争の影が……。伊武の長い旅が終わるこの機に、ぜひ3冊まとめてどうぞ。

 歴史とロボットをリンクさせるこのシリーズの元ネタがヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』。1886年にパリで出版されたロボットSFのクラシックで、一昨年、光文社古典新訳文庫から新訳が刊行された。主役の一方は発明王トーマス・エジソン。古い友人から恋の悩みを打ち明けられたエジソンは、彼のために一肌脱いで、美しい容姿と高貴な魂を合わせ持つアンドロイドを提供しようと申し出るが……。

 昨年、柴田勝家が書き下ろした伝奇SFロマン『ヒト夜の永い夢』(ハヤカワ文庫JA)にも、少女型ロボットが登場する。粘菌コンピュータによって思考する自動人形、その名も「天皇機関」! こちらは、南方熊楠はじめ、江戸川乱歩、佐藤春夫、宮沢賢治らが登場する。

新潮社 週刊新潮
2020年1月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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