『13坪の本屋の奇跡』
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13坪の本屋の奇跡 木村元彦(ゆきひこ)著
[レビュアー] 木村晃(サンブックス浜田山店長)
◆客のため理不尽と闘う
町の本屋が消えていく…出版流通の理不尽に立ち向かい続ける十三坪の小さな本屋がある。大阪の「隆祥館書店」。これは創業者二村善明氏、二代目知子氏へと続く父娘の闘いの記録だ。
出版流通にはトーハン、日販という二大取次会社があり、ほとんどの本屋が取引している。だが町の本屋にとって不利な取引条件がまかり通るなか、資金繰りに苦しめられている本屋も多い。配本においても、ベストセラーが町の本屋には数冊しか配本されないにもかかわらず、大書店には大量に並んでいる状況もこの業界では当たり前のように起きている。その理由は読んでいただければ分かる。
そのような理不尽な状況にある町の本屋を守るべく、善明氏は大手取次に対し取引条件の改善を求める行動を起こす。その闘いは、公正取引委員会、出版社、書店組合をも巻き込み六年もの歳月を費やし、一定の成果をあげることになる。この改善で町の本屋が受けた恩恵は計り知れない。出版業界に限らず、大手企業の言いなりにならざるを得ない小売店という図式はどの業界にもあるだろう。それを諾としない善明氏が知子氏にかけた言葉が印象的だ。
「おかしいと思ったんなら声をあげんか。座しておっても何も変わらんぞ」
二〇一一年からはトークイベント「作家と読者の集い」を開催し、現在二百四十九回にも及ぶ。実に月二回以上のペースだ。このイベントで世に出た作家、作品も多い。知子氏が書店業もこなすなか当該書籍を読み込み、作家の聞き手になるというから驚きだ。決してもうかる仕事でもなく、取次会社の理不尽にあらがいながらも本屋を続けるのは知子氏のこの言葉に尽きる。
「自分にとって一番嬉(うれ)しい瞬間とは何やろうか、それは私が薦めた本をお客様が『あれ面白かったよ』と言って下さった瞬間なんです」
出版不況のなか、同じ町の本屋として考えさせられるとともに勇気を与えてくれた一冊だ。お客様が「自分の住む町に本屋があって幸せだ」と思ってもらえるような本屋になろう。
(ころから・1870円)
ノンフィクションライター。著書『オシムの言葉』『蹴る群れ』など。
◆もう1冊
田口幹人著『まちの本屋』(ポプラ社)。リアルな本屋の存在価値は?