【聞きたい。】毛利嘉孝さん 『バンクシー アート・テロリスト』

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バンクシー

『バンクシー』

著者
毛利嘉孝 [著]
出版社
光文社
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784334044466
発売日
2019/12/18
価格
1,078円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】毛利嘉孝さん 『バンクシー アート・テロリスト』

[文] 黒沢綾子

 ■謎に満ちた全体像に迫る


毛利嘉孝さん

 世界各地にゲリラ的に出没しては、話題をさらう正体不明のストリート・アーティスト、バンクシー。一昨年の秋、代表作「風船と少女」が競売で落札された瞬間、額縁に仕掛けられていたシュレッダーで裁断された“事件”は世界を驚かせた。さらに昨年、バンクシー騒動は日本へ。東京・湾岸部の防潮扉に、彼の手によるものと思われるネズミの絵が見つかり大騒動になったのは記憶に新しい。

 バンクシーに関する本を3冊翻訳していたこともあり、連日取材を受けた。基本的な質問が次々に飛んでくる。「そうか、意外に知られてなかったんだと気づいた。皆が知ってるアーティストだと思っていたけれど、美術やポップカルチャー、英国好きなど限られた世界の中だけなのかもしれない、と」

 バンクシーとは何者か。彼の美学や政治意識の背景には何があるのか。本書は彼の活動の変遷やメディア戦略、若者やポップカルチャーに与えた絶大なる影響などを概説し、謎のアーティストの全体像に迫る入門書だ。

 ネズミの絵については都知事が早々に保存を決めたが、「落書きは消すべき」などと抗議の声も上がった。「保守的な人だけでなく、どちらかといえば市民運動に熱心なタイプの人々の反対が多かったのが意外でした」

 もちろん日本に限らず落書きは犯罪だが、欧米諸国の都市に行けば、グラフィティ(落書きアート)が住人らの「表現」としてある程度、許容されているのがわかる。ストリート・アートが美術館に並ぶ作品と決定的に違うのは、「最終的に価値を判断するのが市民だということ」。

 「日本でも騒動を機に、都市空間のあり方や表現の自由について、公的な議論ができたら面白かったかな」。小さなネズミが投げかけたものは、実は大きい。(光文社新書・980円+税)

 黒沢綾子

   ◇

 【プロフィル】毛利嘉孝

 もうり・よしたか 東京芸大教授。昭和38年、長崎県生まれ。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで博士号(社会学)取得。主な著書に『ストリートの思想 転換期としての1990年代』。バンクシーに関する著作の翻訳(共訳)も手掛ける。

産経新聞
2020年1月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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