外との接触を拒み、自分の内側から湧き上がる音楽をひたすらすくい取る-。翻訳家の有智子は、そんな作曲の才能に恵まれた妹・真名を連れて音楽理論の大家である父をウィーンに訪ねる。芸術の都を舞台にした父と子、姉妹の愛憎入り交じるドラマに、言葉と音をめぐる思索が絡み合う。
〈音は単独であるとき、何と無力か、そして言葉が音と結びつくということがどれほどかけがえなく貴いか〉。言葉か音か、という二項対立を超えた先にある豊かな可能性を模索する筆致は、静かだけれど熱い。第162回芥川賞候補に選ばれた芸術小説。(文芸春秋・1400円+税)
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2020年2月2日 掲載
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